【新連載スタート】人間テイスティングの舌と筆——「ワインボトルの底」に期待する(重金敦之)

柳さんと名越さんに期待する
 世に「ワイン・ジャーナリスト」と名乗る人は多い。そこで名称はともかく、「日本ワイン・ジャーナリスト会議」なる組織を設立する動きがかなり以前からある。会員の資格が検討され、役員候補の名前や事務局の場所までも具体的に挙がった。しかしどういうわけか、直前になっていつも立ち消えになってしまう。
 一番大きな問題は、「ワイン・ジャーナリスト」の資格である。さらに詰めると、「ジャーナリスト」の定義にたどり着く。ワインメーカーやワインの輸入商社に在籍しながら、雑誌に寄稿し、翻訳やワインの専門書を執筆している人を「ジャーナリスト」と呼んでいいのか、意見が分かれるところだ。
 ワインを含む洋酒全般を扱う業界紙や月刊誌の記者や編集者は、どうなのか。自動車業界や証券・金融、電気器具、アパレル産業などは、一般新聞と専門紙の記者クラブが截然と別れていて、記者発表なども別々に行われる。
 日本酒の関係者をどう扱うのか、も議論の種だった。日本酒は、「ジャパニーズ・ワイン」と呼ぶのだから、当然入れなくてはいけない、という人と、入れるべきではない、と意見が分かれた。
 ワインに関わるジャーナリストは、まだまだ少ない。ジャーナリストを名乗る以上は、メーカーやインポーター、酒販店から「フリーハンド」であることが求められる。
 柳忠之さんと名越康子さんは、業界紙や業界誌と一線を画し、フリーランスの立場で取材と執筆活動を続けている数少ない正真正銘の「ワイン・ジャーナリスト」だ。日本を代表する「ワイン・ジャーナリスト」といっていい。
 世界のワイン畑を飛び回って、多忙なご両所が取材の合間に見聞した各地の食文化や各国での人たちとの出会い、鋭い社会観察、考現学を報告してくれることになった。
 ワインのボトルの底には、澱(おり)も溜まれば、芳香も共に残っている。コレストロールではないが、善玉の澱もあれば悪玉の澱もあるに違いない。長期間の熟成を経た古酒の濃醇な味と新鮮なワインの爽快感のバランスを楽しませてくれるに違いない。面白くないはずがない。
 読者諸賢と一緒に、今一番光り輝いているワイン・ジャーナリストの「人間テイスティング」の舌と筆に期待したい。(文芸ジャーナリスト)