第2回 ニュージーランドで「中国」に出会った

 ニュージーランド産のピノ・ノワールのイベントに参加するため、ニュージーランドの首都、ウエリントンを訪問した。
 4日間のコンフェレンスで、セミナーを聞いたり地域別に試飲したり、座談会に参加したりと忙しい。しかし、生産者も含めて世界各国から人が集まるので国際色豊かなのが面白い。
 ただ、このような会で困るのは何よりも言葉。英語圏の人たちは、容赦なく日常的なスピードで話し、相手がどこの国の出身で英語の能力がどのぐらいかなどお構いなし。しばらく出張が欧州の非英語圏ばかり続き、いわゆる英語は第二外国語という人たちと話すことが多かった身には、いささか辛い日々でもあった。
 こうした場面では、面白いことに自然とアジア系が集まることになる。日本、韓国、中国、マレーシア、シンガポールといった具合で、互いにそれぞれの国の言語を知らないから仕方なしに共通言語の英語で話す。でも発音が比較的わかりやすいし、ネイティヴのように流暢すぎることもなく、オージー&ニュージーのように極端なナマリもないのがよい。
 ある日の会話の中で、広州出身の中国人男性が、「中国ではソーヴィニヨン・ブランはあまり売れないんだよ」と言った。
 ソーヴィニヨン・ブランというのは、フランスのロワール地方やボルドー地方を本拠地とし、ニュージーランドのマールボロ地区をはじめ新世界でも多く栽培されている白ワイン用のブドウ品種だ。
 特徴的な香りをもち、ハーブ、ツゲ、カシスの芽、ピピ・ド・シャ(猫の小水)、あるいはトロピカルフルーツ、グレープフルーツなどと表現され、比較的華やかなのだが、一方で、「緑」や「青さ」を想起する香りもある。そしてこう付け加えた。
「中国人は生野菜を思い出す。ところが私たちは生野菜を食べる習慣がないから、青い香りのソーヴィニヨン・ブランを好まないのかもしれない」
 なるほど、なるほど。驚きと共にその場で合点! 思わず大きく頷いた。
 もうひとつ、ニュージーランドのピノ・ノワールを毎日試飲すると、さすがに地域ごとの特徴が体得できてくる。そしてくだんの中国男性に、どの地域のピノ・ノワールが気に入った? と尋ねると、即答で「セントラル・オタゴ」と返ってきた。
 その少し前に同じく東京から参加した知り合いと、「セントラル・オタゴのワインは品質の高さは明白だけれど、正直なところ一般的な日本人の食生活には濃縮感とアルコール度数がちょっと高すぎるね」との意見で一致したところだった。
 中国では紹興酒が国酒であり、また広州では広東料理が主流だから、同様にしっかりした味わいでアルコール度数が高くボリューム感のある味わいが基本的に評価されるのではないか。
 やはり日常の食生活がワインの嗜好にも大きく影響を与えているということだろう。(by名越康子)
「ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン」:「クラウディ・ベイ」をはじめ、南島のワイン産地マールボロのものが特に有名。どちらかといえば、ハーブ系の緑の香りよりトロピカルフルーツ系の香りが優勢なものが多い。
「ニュージーランドのピノ・ノワール」:北島の産地マーティンボロでは比較的エレガントに、南島のセントラル・オタゴでは濃密なピノ・ノワールができる傾向にある。前者で友人の楠田浩之が造る「KUSUDA」は世界的な評価を獲得!
柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/