第4回 ギャツビーは本当に華麗か?

 海外出張の際、とても重要な時間となるのが往復の飛行機の中。どうしても長時間となるので、その間にどう過ごせるかで随分その後の気力体力に影響する。ところが最近、年齢のせいか体力と関連するのか機上でまったく眠れなくなってしまった。だから、というわけでもないけれど必ず映画を数本観る。
 観たかったものがプログラムにあると喜々とする。「007」の23作目「スカイフォール」など、待ってました!とばかりにオンにした。もちろん、シャンパーニュの「ボランジェ」が、どんなシーンで飲まれるかを確認したいから。特に「スカイフォール」については、2002年の「ボランジェ グラン・ダネ」に「ジェームズ・ボンド 007 スペシャル・エディション」なる特別なボックスに入った限定品も発売されていたので、その扱いを期待した。
 ワクワクして観ていたものの、なかなか出てこなくてヤキモキ。しかもジェームズ・ボンドが美女とからむシーンで一瞬だけのご登場で、ちょっと拍子抜け。出張から戻ってから、ちょうど取り扱いの輸入元さんに会った時にぼやいたら、「あくまでもお友達関係でタイアップじゃないからねえ」と、やはりちょっと不満足そう。ともあれボンドが奇跡の生還をしたのだから、めでたしめでたし、というところかもしれない。
 ところで、先だってポルトガルのマデイラ島へ行くにあたって、ドバイ経由という長い長いルートで向かった。ドバイとリスボンでの待ち時間を入れると、出発から1日半後にようやく到着した計算になる。やはり映画を観るしかない。ちょうど話題作でもあり、オリジナルを観ていないからと「華麗なるギャツビー」を迷わず選んだ。比較的よく乗るエールフランス航空の場合、エコノミーでも飲み物の選択肢にシャンパーニュがあるのだが、エミレーツ航空ではエコノミーでは泡ものなし。ただラッキーなことに、往路便だけは出発数日前の調整でビジネスに変更してくれたから、映画を観ながらシャンパーニュ! という理想的なセッティングが可能になった。
 すると、ギャツビーが催す豪華絢爛なパーティーで、ちょうど同じ銘柄がでてきた。「モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル」が、大量に飲まれ、巨大なダミーボトルも登場する、という具合で、こちらはコラボしていると明らかにわかるほど。享楽的な様子に拍車をかける、名脇役を担っていた。
 ところが、恥ずかしながら初めてのギャツビー鑑賞後の素直な感想は「これで華麗?」。もちろん日本語訳が「華麗なる」であって、原語は”The Great Gatsby” なのだが、それでも合点がいかなかった。そこでわかったのは、自分がいかに日本人色に染まっているか、ということだった。
 確かにディカプリオ演じるギャツビーは、巨大な富を得た成功者で、ある意味アメリカン・ドリームの象徴的存在であるのかもしれないし、またその時代背景の中で巧みに描かれている。ところが、かいつまんで見てしまうと、富と名誉を手に入れてようやく思い人デイジーも手中に収めようとした矢先に、すべて、本当にすべてを失ってしまう。しかもデイジーは自分の罪をギャツビーになすりつけ、恋仲に戻っていたギャツビーを捨てて、権威ある実の夫と共に逃げて行く。
 日本のドラマであれば、こういう終わり方はしないのではないかと思う。デイジーの罪をかぶったギャツビーが逮捕されたとしよう。しかし「幸せの黄色いハンカチ」のように、デイジーはギャツビーの帰りを何年も待つのだ。そして、再会した2人は今一度愛を誓い合って素朴な生活から始める……。
 ちょっと妄想のしすぎかもしれないが、もし日本版のギャツビー物語ができるとすれば、読後感というか観賞後の気持ちがもっと晴れやかなのになあ、と思わずにはいられない。
 ともあれ、映画鑑賞1本には、グラス1杯ではとてももたない。ギャツビーのパーティーのように、とはいわないが、今度はゆっくり地上で映画&シャンパーニュを楽しみたい。(by名越康子)
ボランジェ グラン・ダネ2002
シャンパーニュの中でも、品質の高いピノ・ノワールを主体とした重厚で深みのある味わいとして人気のボランジェは、「007」の作品23作中13回も登場。グラン・ダネはいわゆるヴィンテージもの。2002年は偉大な年のひとつ。

モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアル
世界で最も多く飲まれているシャンパーニュがモエ・エ・シャンドン。ファッションコレクションからゴールデングローブ賞まで、あらゆる祭典でも頻繁に開けられ、ラグジュアリーな時間を演出し続けている。
柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/