第32回 柳発電所まる5年

 我が家が太陽光発電を導入して、かれこれ5年が過ぎようとしている。ご他聞に漏れず訪問販売の口車に乗って取り付けたものだが、契約までにいろいろ自分で調べ、納得づくで導入したので後悔はしていない。
 導入を決意した理由はいくつかある。まずひとつは、当時小学4年生の娘が環境問題に敏感だったこと。地球温暖化を取り上げたテレビ番組を見て、このままなら北極圏の氷が溶け、白クマが生活できる場所を失うことを知った。赤ん坊の頃から彼女がたいせつにしている縫いぐるみが白クマのミミコ。「ミミコがかわいそう」と涙ぐみ、以来、彼女は我が家の省エネ大臣を自負している。
 もう一つは太陽光発電によるオール電化。万が一のためにガスを残してもよかったけれど、それでは電気料金割引きのメリットが得られない。なによりオール電化にすれば火事のリスクから開放される。娘がキッチンに立とうが、長期間、家を空けようが、なんの心配もいらないのは精神衛生上たいへんよろしい。
 そして最後に人柱精神。環境的な面から見ても資源的な面から考えても、持続可能なエネルギーに頼る時代がいずれ訪れる。太陽光パネルも出始めは高いが、普及にしたがい量産効果でコストは下がるし、技術も進歩して発電効率が上がることは間違いない。それまでじっくり待つのも手だろうが、みんなが同じように待っていたら普及は一向に進まず、いくら経ってもコストは下がるまい。試算したところ、国と都の補助金を受けられることもあって、太陽光設備のローン+(買電料金ー売電料金)は、導入前年にかかっていた光熱費とほぼトントン。ならばここはひとつ人に先んじて挑戦し、普及の一助とならん……と思った次第である。
 導入による大きな進歩は、家族全員の節電意識が向上したことだ。発電量、消費量、売電量、買電量を表すモニターのおかげで、どの電化製品が電気を喰うかが一目瞭然になった。意外に大食いと判明したのは食洗機で、たくさんの食器を洗う夜以外は手洗いにした。また我が家で食事をしながら居間のテレビを見るには、ダイニングとの間にある襖を開く必要があり、冷暖房が必要な日はふた部屋分のエアコンをつけなければならず、これが消費電力を押し上げていた。そこであまり使うことのない初代iPadをモニター代わりに、無線LANでテレビの受信画像を飛ばして見ることにしたのだ。この節電効果は非常に大きい。反対に、消費電力がさほどでもなかったのが2台のワインセラー。太陽光システムの業者も、このワインセラーが昼間の売電量を押し下げることを懸念していたが、コンプレッサーが頻繁に回る夏期を除いて、全体の待機電力が0.5kwhを超えることはめったにない。
 面白いのは毎月記録しているデータから、年ごとの天候を思い返せること。2012年は3月まで寒く、発電量は少なく暖房の使用費が嵩んだが、8月は晴天続きで10月になっても好天が続いたことがわかる。2013年はとくに5月が晴れ続きで梅雨が短く、8月、9月は晴天の日が多かった。10月に一変して発電量が下がっているのは、台風の接近が多かったせいだ。昨年は全体的に発電量が少ない。それでも8月が大幅な赤字に至らず済んだのは、気温が低く、冷房の使用が控えめだったおかげだろう。これらのデータは、東京に比較的近い山梨あたりのブドウの出来と関連付けることができる。たしかに2012年は稀に見る偉大な年だったし、2013年も悪くなかったが、晩熟の品種は台風の影響を受けたようだ。2014年は日照不足と低気温、赤ワイン用品種の色付きが悪いと聞いている。その一方、白ワインは酸のノリがよく上々とのこと。
 ところで、海外に出かけると、太陽光パネルを取り付けたワイナリーを見かけることがある。最初に目にしたのはカリフォルニアはナパ・ヴァレーにあるシェーファー。2000年夏に起きたカリフォルニアの電力危機を教訓に、自家発電を思いついたそうだ。さっそく太陽光パネルを導入するところが、昔から持続可能な農業を標榜するこのワイナリーらしい。ほとんど雨の降らないカリフォルニアは、太陽光発電にぴったりの環境に違いない。
 フランスでは、ロワールの奇才と謳われた故ディディエ・ダグノーの醸造所の屋根に、太陽光パネルが敷き詰められていた。このドメーヌが太陽光発電を始めた理由も愉快である。醸造所のあるサンタンドランの丘の上からロワール川へ目をやると、ベルヴィル原子力発電所の原子炉から真っ白な水蒸気がもくもくと噴き出しているのが見える。それを見下ろしながら、息子のルイ・バンジャマンが言った。「お宅らのお世話にならずとも、偉大なワインを造ってみせますよってことかな」。
 導入して1年後に起きた東日本大震災と福島原子力発電所の事故は、燃料費調整の増額と一昨年の料金値上げをもたらした。当初予定していた収支バランスは大きく崩れたが、それでも年間使用する電力量の半分ほどを、自家発電で賄っていると考えればさほど悪くはないだろう。地球温暖化の防止には少なからず貢献してると自負している。
 日本には太陽光など持続可能なエネルギーを利用しているワイナリーはあるのだろうか? そんなものを設置する土地があるならブドウを植えると言われれば言葉はないし、このところの大型台風の被害を考えると太陽光パネルは吹き飛ばされそうで勧めづらい。それでも持続可能なエネルギーは喫緊の課題だ。なにしろ大型台風をはじめ昨今の異常気象は、地球環境の変化に起因している。日本がブドウを育てられない国になる前に、エネルギー問題について真剣に向き合う必要があるのかもしれない。(by柳忠之)
「シェーファー」:ナパ・ヴァレーの著名ワイナリー。とくにスタッグス・リープ・ディストリクトの「ヒルサイド・セレクト」は、マニア垂涎のカベルネ・ソーヴィニヨン。
「ディディエ・ダグノー」:ロワールで最高のプイィ・フュメを生み出すドメーヌ。08年に当主のディディエが急逝。息子のルイ・バンジャマンが跡を継ぐ。
sayusha