第35回 朝ご飯にもその人の個性が表れる

 It’s a small world! と、肩をたたき合うことがある。ワインの業界で仕事をしていると、知人の知人が親しい知り合いであったりすることが多い。広い地球に住んでいるのに人間関係は意外に狭く、皆どこかで繋がっているようだ。ワインを共通の「言語」とする集まりで、連帯感が生まれる時に使う。ごく最近、ドイツのベルリンで19回続いているワインのコンテスト「ベルリン・ワイン・トロフィー」に審査員(ジャッジ)として招(よ)ばれたが、そこでも2、3度言っただろうか。
 参加する5,000を越えるワインの銘柄だけでなく、150名あまりの審査員も、世界各国から集合したインターナショナルな会だった。アジア系だけでも、日本、韓国、中国、香港、台湾、インドネシア、シンンガポールと、国籍はさまざまだ。もちろん、それぞれのバックグラウンドも異なっている。ほぼ初対面の人ばかりにもかかわらず、2人3人と共通の知人が見つかるから楽しくなる。
 ひとつのホテルで、このメンバーがビュッフェ形式の朝食や昼食をともにする。いつも同じ組み合わせで席に着くわけではないので、誰がどんなものを選んでお皿に乗せるのか、見ているだけでも面白く、発見も多かった。

 ある日の朝食は、4人でテーブルを囲んだ。1人はすでに面識がある日本人女性。でも、朝食を共に食べるのは初めてだった。2人は男性で、この会で初めて出会ったフランス人と、1年ほど前に東京で行われた試飲会で会ったことのあるワイナリーのオーナーのスイス人だった。
 私は自宅の朝と同じように、ヨーグルトにフルーツ、ジャム。紅茶。これからワインを試飲するので、酔いすぎないようにパンもプラスした。ドイツのパンは種類が豊富で、さまざまな穀物や木の実が使われている。弾力があり噛みごたえがあるので、毎日食べていると、必ず歯やあごが丈夫になるに違いない。噛めば噛むほど味が出てくるタイプで、私の好みだ。これにクリームチーズを塗って食べると、満足感がいっそうふくらむ。64_#35_photo_h350
 知り合いの女性の背格好は、私とだいたい同じぐらい。彼女の選択は、似ているようで微妙に違った。ヨーグルトにフルーツをたっぷり乗せて、ミューズリー(シリアルの一種)もトッピング。飲み物はハーブティー。ジンジャーがブレンドされたハーブティーで、美味しくて気に入ったからと味見をさせてくれた。口の中が爽やかになると共に、身体が温まるような気がした。ドイツの寒い冬の朝には最適な味わいだった。
 さて、対照的だったのは私たちの前に座った男性2人で、平たい直系20センチほどの皿に乗せられた素材とその量を見比べてしまった。
 フランスからの男性は、カットされたフルーツを文字通り山盛りにしていた。2センチ角の青リンゴ、パイナップル、冬なのになぜか西瓜、マンゴー、メロン、それに紫色のブドウなど、色とりどりの果物の山の頂は7センチに達していただろう。ずっとほほえみながら、美味しそうにひとつずつゆっくり口に運んでいた。
 スイス人男性のお皿は、殻が茶色の半熟の茹で卵、直系1センチ長さ10センチもないぐらいの細長くて赤茶色のサラミソーセージと、大胆に厚切りした白カビチーズとウオッシュチーズが一切れずつ。室温でとろけたチーズはお皿からなだれ落ちそうになっていた。それに、スライスされたドイツの黒パンが二切れ。タンパク質たっぷりでパワーの出そうな一皿を、ペロリと平らげた。
 果物好きのフランス人男性は背が高く、180センチはゆうに越えていた。その背の高さからすると体格は細身で、光沢のあるベージュに栗色混じりの髪だ。銀縁の眼鏡の向こうには、同じような茶系統の瞳がいかにも優しそうに見えた。上のほうから地上の人の生活を俯瞰するように、ゆうゆうとマイペースで生きているように思えた。あるいはご先祖はキリンだろうか。
 タンパク質系のスイス人男性は、果物の人ほどではないがやはり背が高く、肩幅は広く胸板の厚みもあった。焦げ茶色の髪の毛で、透き通った淡いブルーの瞳が、一段と肌の白さを強調している。赤に近いピンクと白の細いストライプのカッターシャツには皺ひとつない。滑舌のよい英語で、お隣のソフトに流れるフランス語とのコントラストが面白い。メリハリのある立ち居振る舞いから、空手や柔道のようなスポーツの経験があるのではないか、などと想像した。
 朝ご飯ひとつとっても、自由に選べるとなれば、多いにその人の色がでるんだなあ〜。「美味礼賛」の著者ブリア=サヴァランは、ふだん何を食べているか言えばどんな人物かわかる、と書いたが、3人の朝食を見ていると、本当にそう思えてきた。
 150人もが集まると、全員と話をするわけではない。けれど、同じ目的で集まった人たちなので、何かしら共通項が存在する。年は最年長で70代半ばから、若い人では30代前半まで。ワインという媒介があって初めて出会うことができた人たちだ。「小さな世界」もなかなか楽しい。(by名越康子)
「スイスのワイン」:スイスは、ワイン造りの歴史は長いがあまり知られていない。生産量が少なく、ほとんどが国内で消費されてしまうため、輸出する量が少ないからだ。ワインは白ワインのほうが多く、特にシャスラーという品種が主流。繊細でキリッとしたピュアな白ワインで、和食とも相性がよい。
柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/