第56回 「スター・ウォーズ」

 「スター・ウォーズ」の新作「エピソード7」を、年末に家族で観に行った。たぶん、劇場でスター・ウォーズを観るのは、初めてではなかったかと思う。
 過去に何度かビデオで観たことがあるから親しみはあるし、丸くて小さいものには目がないので、ロボットのR2-D2は大好きだ。でも、TVのニュースで出ていた上映を待ち望む人たちのような、熱狂的なファン、というわけでもない。だからまあ、観賞する目は少し冷めていたのかもしれない。
 最近の映画館は予約ができるし、完全に座席指定のシステムがとられている。昔は立ち見も当たり前だったように思うのだが、今ではありえない光景だ。ひとつの映画館の中には小さな劇場がいくつもあるし、座席の片側には飲み物やポップコーンを置く専用の小さなテーブルが備え付けられたりしていて、いたれりつくせりだ。
 それに加えて、今回のスター・ウォーズでの恐るべきサービスに驚いた。指定の部屋へ向かう途中で、チケットのチェックを受けた。そこで眼鏡を手渡されたのだ。3D眼鏡をかけて映画を観る、という設定だった。
 映画が始まるや宇宙船や戦闘機がたくさん登場して、飛行する衝撃音や爆撃音が「音量大」で聞こえてきた。これじゃあ、映画終了時には耳が痛くなっているかもしれない、と心配になってきた。それに、3D眼鏡になかなか慣れず、しばらくは車酔いに近い状態になってしまったので、さわやかな気分とはいえなかった。
 きっと、ディズニーランドへ頻繁に通って3D映像に慣れている人や、超最新のジェットコースターは待ってでも乗りたいという人には、またとない楽しく興奮できる時間になるのだと思う。でも、いつも比較的静かな生活をしている身にとっては、結構な疲労感が残った。

 ちょうど先日、20年来の旧友が半世紀の誕生日を迎えるというので、急遽招集がかかった。小さなパーティーはとても和やかで賑やかで、案の定、終電を乗り継いで帰宅することになった。
 我が家の最寄りの駅には、各駅停車しか止まらない。ひとつ上り方面の駅には急行が止まるので、そこで乗り換えて、一駅乗って自転車で帰る、というのがいつものパターンだ。
 ところが、終電の時間帯というのは乗り継ぎ時間が長い。掲示板を見ると5分以上も待たなければならなかった。たったの2分電車に乗るのに5分以上も待つ、というのはつまらない。
 ということで、最寄り駅の駐輪場まで歩いてしまおう、と決めた。寒いけれど雨や雪が降っているわけでもないし、坂道を下っていくのでそうつらい道でもない。最近軽い運動がてら一駅分歩くこともしばしばあるので、いつものエクセサイズだと思えばいい。
 急な坂道にさしかかる辺りまで来ると、水の流れる音が聞こえてきた。道路の下に小さな川がある。普段、日中歩いている時には気がつかない音だった。人気(ひとけ)もなく、車やバイクも通らない、閑散としている時間帯だからこそ、水の音が足元で響いて聞こえたのだろう。
 そういえば、ちょうどその坂道の下のほうに小さな滝があって、可愛らしいお社が建てられている。NHKの「ブラタモリ」という番組が結構気に入っているのだけれど、そこでタモリの言う「高低差」がもたらす水流なのだ、と納得しながら坂を下った。滝は小さくはあっても、勢いのよい音を放っていた。
 坂道を降りきってしばらく行くと、今度は橋を渡る。ここでは時々綺麗なカワセミを見かけることがある。たいそうな一眼レフを構えてカワセミをショットに納めようという人も見たことがあるから、マニアの間では撮影スポットとして知られているに違いない。その橋を渡りながら自然と耳をすませていると、坂道の道路下の水音や、小さな滝の音とも違い、川の流れはさらに優しく正確なリズムを刻んでいた。
 水の音にも随分色々あるんだなぁ。そう気がついたのは、深夜の散歩を楽しめるぐらい、ほどよい気分にしてくれた旧友とその仲間たち、それに美味しいワインのおかげだ。だって締めの1本が、泣く子も黙る「サロン2002」だったのだから。
 東京都内とはいえ、こういう静かな場所で暮らしているものだから、未来的技術を駆使した最新のスター・ウォーズの演出に、ついていけなかったのに違いない。聞けば、劇場によっては「4D」を楽しめるという。座席が動いて衝撃を体感できるしくみになっているようだ。
 年末年始に鳥取の実家に帰った時、父が最近の人たちのフマートフォンの使い方について「そこまでしなくても」と嘆いていた。スマホについては自分でも並み級ながら便利に使っているほうなので、何ともうまい合いの手が打てずに苦笑いしてしまった。でも、私も同じ言葉を「スター・ウォーズ」を観た後に呟いていた。たぶん私も、もう古い人の部類に入るんだろうなあ〜。
 ともあれ、「エピソード8」をまたロードショーで観るならば、「フツー」の2Dだといいなぁ、と願っています。(by名越康子)


何を隠そう、このサロン2002を注いでいるのは有名ソムリエさんの手であります。なんと豪華な……。
何を隠そう、このサロン2002を注いでいるのは有名ソムリエさんの手であります。なんと豪華な……。
「サロン2002」:シャンパーニュのプレステージ・キュヴェ。旧友と出会った20数年前にはまだそれほど有名ではなく、1万円もしなかったのに、今では税抜き6万円となってしまった。だから、誰かに飲ませてもらえるのを待つしかないワインのひとつだ。加えて2002年ヴィンテージは本当に素晴らしく、完璧なバランスで、まだとても若い状態。750mlを10人でいただいたが、それでも十二分な満足感でした。
柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/