第61回 ガールズトークは世界共通

「ティーンエイジャーは、やっぱり大変?」と、聞かれることがときどきある。娘がまさにその真っただなかにいるからだ。でも、決まって「それほどでも……」と答えている。だって、彼女とはガールズトークで盛りあがれる仲だから。
 いったい何を話しているかとふと考えてみたが、これといって思い出す内容もないぐらいで、たわいもない話をしているのだ。友達のこと、食べ物のこと、駅の近くを散歩していた大きな白い犬の話など。話す量が多いのは、断然娘のほうだ。私は元来無口なほうだし、仕事柄インタビューする機会が多いから聞き手に回ることが多い。ちょっと合いの手を入れると、あれやこれやととめどもなく話してくれる。彼女は私に似ず結構おしゃべりになったような気がする。

 5月に北イタリアのピエモンテを訪れた。アルバの街に滞在して、バローロ、バルバレスコ、ロエロを試飲するためだ。天気が良いとホテルから試飲会場に行く途中で、甘〜い香りが漂っているのに気がつく。そう、ヘーゼルナッツとチョコレートで作るスプレッド「ヌテッラ」の工場が、この街のはずれにあるのだ。長老のワインの造り手ミケーレ・キアーロ氏は「60年代には、従業員は12人しかいなかったんだ。小さな菓子店から始めたからね」というが、今では、イタリアを代表する大企業だ。
 5月初旬のアルバは、昨年も一昨年も晴天続きで温かい1週間だった。出かける前に週間天気予報をチェックした時も、東京と同じぐらいで25度を上回る予報だったから、軽装で充分だと思っていた。ところが現地に到着すると、今年は毎日雨模様。20度を下回る日もあり、風邪をひきそうなほど肌寒かった。
 そこで、何か一枚羽織りものを調達することにした。いわゆる「革ジャン」の部類に入るが、フェイク・レザーでお手頃価格だ。その上、洗濯機でも洗えるというのだから、これは便利!と迷わず、白いのを手に取っていた。
 ちょうどホテルのロビーで待ち人をしていた時に、今回知り合いになった目がパッチリとして快活な中国人女性が私に声をかけてきた。その白いジャケットに興味を示した。このアルバで買ったのだと説明すると、試着してみたいと言う。どうぞどうぞと手渡すと、着心地を確認したり鏡に映して眺めてみたりした。どうやらいたく気に入ったようで「私もこれ買いに行くわ!」と意気込んでいた。
 1週間の試飲が終了し、飛行場へ向かうミニバスを待っていると、中国の彼女も大きなスーツケースをふたつも携えてやってきた。同じバスで帰途に着くのだ。いざ、バスに乗り込むと、前の3席は男性チーム、後ろの3席は女性チームと自然と分かれて座っていた。女性三人は日本、中国、ポーランドだ。
「革ジャンは買ったの?」
「そのお店は閉まっていて買えなかったのよ。でも、別のものを買ったわ!」
「洋服?」
「そう、洋服も買ったけれど、靴は合計6足よ」
「6足も?」
「私のでしょ、夫のでしょ、私の両親、義理の両親。私がいない間は義理の両親が小さい子供の面倒をみてくれているからね」
「あら、じゃあちょうどいいお土産になるわね」
 こんな「日中会談」に薄いグレーの瞳でとてもオシャレなポーランドが口を挟んできた。
「でも、アルバは物価が高いわよ。同じものでも、ミラノのほうが安いもの」
「え? そうなの?」と、ポーランドのファッション事情通に日中は驚いた。
「私、ミラノでイッセイ・ミヤケを一着だけ買ったけれど、半袖なのに400ユーロもしたのよ。それでも、上海よりは安かったわ」と、中国の彼女が上海の物価高を嘆いた。
「あ、あなたのほうが上海の人?」と、ポーリッシュはけげんな顔をした。
「東京から来たのは彼女よ」とミセス上海は私のほうを見た。
 どうやらポーランドの彼女は、二人の会話を聞きながら上海と東京から来たアジアチームだとわかったようだが、私が上海だと思ったらしい。
「あなたは100%日本人?」
と、ポーランドはまだ不思議そうな表情をしている。私にはよく意味がわからなかった。すると、少しヨーロッパの血が入っているのではないか、と言うのだ。正直なところ嬉しかった。そんな風に言われたのは初めてだったから。
「ありがとう。でも100%日本人よ。典型的な平たい顔のね」
三人とも顔を見つめあいながら、大笑いした。

 井戸端会議はまだまだ続くが、前列に座る男性陣はコクリコクリと居眠りをしているようだった。この手のガールズトークには、参加しようという意欲も湧かないのだろう。
 そう。我が家でも華やぐ母娘のガールズトークを横目にしながら、入ってこられない男性が一人いる。ちょっと可哀想な気がする時もあるのだが、こればかりは男女で共感できるツボがちがうので、招き入れてあげようとは、なかなか思えないでいる。まあ、そもそも自分の年齢で「ガールズ」と呼ぶのもおこがましい話なのだけれど。(by名越康子)

バローロ、バルバレスコ、ネッビオーロ:北イタリアのピエモンテ州で、ネッビオーロという葡萄品種から造る赤ワイン。ネッビオーロは、色は濃くないけれどタンニンが豊かで長期熟成型の赤を生む品種として知られている。中でもバローロが最も長期熟成に耐え、バルバレスコはよりエレガントなスタイル、ロエロはよりソフトなスタイルに仕上がり飲み頃は早い。
ミケーレ・キアーロ:同じくピエモンテ州のワイン産地アスティが拠点の「ミケーレ・キアーロ」の当主。ネッビオーロの弟分的な葡萄品種バルベーラで造るバルベーラ・ダスティ、バルベーラ・ダスティの中でも優良産地として単独で新たにDOCに認定されたニッツァの名手として知られている。バローロにも畑を所有しているが、バローロ地区ではバローロだけに専念し、バルベーラでバルベーラ・ダルバを造ろうという気持ちは一切ないようだ。
ブラインド・テイスティングを支えるソムリエ諸氏

ブラインド・テイスティングを支えるソムリエ諸氏

柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/