第48回 ワインを教えて15年

 池袋の東武カルチュアスクールで月一回のワイン講座を受け持ち、すでに15年以上が経つ。当初は名越さんがひとりで講師を務めていたこの講座。彼女が身ごもったのを機に、私がピンチヒッターを請け負い、無事出産の後はひと月交替で講座を受け持つことにした。ところがいつの間にやら私が毎月で講師をするようになり、出張で私が留守の時には彼女がピンチヒッターという具合に、今では立場が逆転している。
 この講座はごく初心者向けの内容で、月1回2時間でも、1年通い続ければ、好みのワインが自分ひとりで選べるようになることが目標だ。講座では毎月、一種類のブドウ品種を取り上げ、同一品種で産地の異なるワインを複数試飲。たとえばリースリングには固有の品種特性があるが、ドイツのリースリングとオーストラリアのリースリングを飲み比べると、スタイルがまったく異なることに気づくはず。こうして12回の講義を終えた受講生は、「白は涼しい産地のシャルドネ、赤ならパンチの効いたシラーが好み」と言えるようになる(ことをめざしている)。これはもともと名越さんの発案だった。
 過剰な期待をされても困るので、初めての生徒さんにはあらかじめ、「この講座を受講してもソムリエ試験には受かりませんよ」と断りを入れることにしている。さすがにカルチュアスクールで行われる月一回の講座で、ソムリエになれると思ってやってくる人などいないだろう。それでも10年以上通い続けてくださる常連さんの比率が高いこともあり、試飲用のワイン選びにはこだわりや遊びを入れたくなるし、基礎的な内容ばかりではこちらが退屈だから、現地で仕入れたマニアックな話しをついついしてしまう。4月の第1回から受講している生徒さんならまだしも、年度の途中から入ってきた人だと私や常連さんの会話についていけず、1期3ヶ月で止めてしまう人も多い。これが悩みの種だ。
 ソムリエ試験といえばつい先日も行われたらしく、SNSでは試験の当日、会場の様子や受験した人の感想が飛び交っていた。以前にこのコラムで書いたように、ワインジャーナリストには特別な資格などなく、当然ながら私もソムリエ資格をもってはいない。
 ところが、日本ソムリエ協会のホームページに期間限定で今年の問題が載っていたので、ものは試しと解いてみることにした。ほとんどの問題が四択だから、自信のない問題でもあてずっぽうで答えれば25パーセントの確率で当たるはずだ。
 結果は全130問中、106問正解し、正答率は81.5パーセントだった。まったくの予習なしで望んだにしてはまあまあか。さすがにフランスワイン関連の設問はひとつもはずさなかったが、他の産地の出題はいくつか落とした。ワイン以外のアルコール飲料、例えばビールや泡盛の問題が不正解なのはお許しいただけると思う。
 ただひとつ、フランスワインでも解答に迷ったのが……、「Champagne Non MillésiméのTirage後の最低熟成期間を1つ選んでください。1. 12ヶ月 2. 15ヶ月 3. 18ヶ月 4. 24ヶ月」というもの。
 Champagne Non Millésiméとは、シャンパーニュ・ノン・ミレジメと読み、ヴィンテージ表記のないシャンパンのこと。Tirageはティラージュで、瓶内二次発酵のためにベースとなるワインに酵母と糖分を混ぜ合わせたリキュールを加えて瓶詰めすることをいう。正解は2番の15ヶ月。
 たしかにティラージュ後、出荷までの熟成期間は15ヶ月なのだが、そのうち、デゴルジュマンと呼ばれる澱抜きまでの熟成期間は最低12ヶ月と規定されている。取りようによってはデゴルジュマンまでの12ヶ月が正解とも考えられ、本来ならばこの問題、「Tirageから“出荷までの”最低熟成期間を1つ選んでください」とすべきではなかったろうか。そもそもNon MillésiméやTirageなど、わざわざフランス語の言語表記を用いる必要があったのかも疑問だが……。
 大勢の受験生の答案を効率よく処理するためマークシート形式となり、そのため暗記力重視の設問になるのはやむなし。それでもこれからソムリエとして働く人たちの資格試験なのだから、デイセラーの設定温度だけでなく、もう少し実践的な問題があってもよいように思われた。
 例えば、「お客様からワインにコルク臭がすると指摘されたものの、自分が試飲するかぎり正常でした。正しい対応を次の中から選びなさい。 1.無償で同じワインを提供する。2.有償で別のワインをすすめる。3.無償で別のワインをすすめる。4.欠陥がないことを理路整然と説明する」
 もう1問。「真鯛のポワレを注文したお客様が、ワインに若いカベルネ・ソーヴィニヨンを選びました。正しい対応を次の中から選びなさい。1.注文どおりのワインを提供する。2.別のワインをすすめる。3.ワインをデカンタージュする。4.そのワインに合うよう、シェフに料理を工夫してもらう。」
 ……と、勝手に問題をつくってみたものの、正直なところ、正解がどれかはわからない。客の立場としてはこれが正解であって欲しいと思う答えはあるにせよ、ソムリエにはソムリエならではの正解があるに違いない。
 ついでに資料を見たところ、昨年のソムリエ試験出願者は3343人。これにワインアドバイザーとワインエキスパート、さらに上位資格のシニアソムリエ、シニアワインアドバイザー、シニアワインエキスパートを加わえてじつに8285人が資格試験に挑戦したそうだ。毎年増えているから、今年はこの数字以上だろう。試験対策を看板にしているワインスクールはどこも盛況のようだ。
 カルチュアスクールはカルチュアスクールで、いつもどおりマイペースの講座を続けていこうと思う一方、10年選手の常連受講生のモチベーションを高めるため、ワインエキスパート取得を目指した特別講座を開いてもよいかなと思ったりもする。いやいや、そのためには講師がまず先に、シニアワインエキスパートあたりを取らなければ受講生も納得しないか……。それはやはりご勘弁だ。