第52回 イケメンと美女のマリアージュは?

 昨年、西島秀俊が一般女性との結婚を発表して、世の中の独身女性が労働意欲を失い、GDPへの悪影響が懸念されたばかりだが、今年も山本耕史と堀北真希に続き、福山雅治と吹石一恵がまさかのびっくり婚。最後の砦(?)、竹野内豊の去就が注目されている。
 なんて、芸能ネタはどうでもいいことだけど、やはり結婚はおめでたい。今年6月には旧来の友人が結婚し、我が家も夫婦揃って披露宴に出席した。新郎も新婦も幸せいっぱいの笑顔。きっと素敵な家族を築いてくれるに違いない。
 ところで料理とワインの組み合わせを、結婚にたとえて「マリアージュ」と呼ぶ。先日、ワイン専門誌から、マリアージュ特集をするので、私にもひとつ、実験につきあって欲しいと連絡があった。ブドウ品種が異なる12本のワインと、10種類の缶詰めを送るので、そのマリアージュを検証して欲しいという。12かける10で120通りの組み合わせ。宅配便でワインと缶詰めが届いた瞬間、気軽に引き受けたことを後悔した。
 雑誌が発売前なので、ここで結果を詳らかにするわけにはいかないが、なかなか得難い経験ができた。セオリー通りにマリアージュの成立する組み合わせがある一方、味付けの濃さや肉質、鮮度などが原因で予想通りのマリアージュとならない例も少なくなかった。かと思えば、難しいと思われた組み合わせでも、意外とうまくいくことがあり、物事はなんでも、実際に試してみないとわからない。
 ソムリエコンクールでもマリアージュの設問は必須である。11月5日と6日の2日間、香港で第3回アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールが開催された。日本からは、昨年の全日本最優秀ソムリエコンクールでそれぞれ1位、2位となった、石田博さんと野坂昭彦さんのふたりが出場。見事、石田さんがアジア・オセアニアの3代目ソムリエ・チャンピオンに輝いた。
 決勝審査におけるマリアージュの出題は、開催地の香港らしく、10種類の点心に合わせて3種類のロゼワインを挙げるもの。ただし、3種類のワインは生産国が重複してはならない。
 石田さんは3種類のうち、ひとつを日本のロゼにした。もちろん、ただ単にワインを選べばよいわけではなく、その理由を述べる必要がある。それも母国語以外の外国語で。石田さんは流暢にフランス語を駆使し、選んだワインの特徴を説明した。おそらく審査員の誰一人として、石田さんが選んだワインを飲んだ経験はないだろう。だから、審査員は、石田さんの説明をもとに、頭の中で点心との組み合わせを想像する。ヴァーチャル・マリアージュである。
 数の子や納豆など、どう頑張ってみてもワインと衝突し、悲劇的な結末しか迎えないマリアージュもあるにはあるが、日頃の食卓ではワインの格さえ間違わなければ、大きな破綻はないと思っている。だから、我が家ではホッケの干物にチリのカベルネ・ソーヴィニヨンを合わせたり、ジンギスカンにIGPペイ・ドックのソーヴィニヨン・ブランを合わせることもある。決してお似合いではないが、完全に離別とまでは至らない。
 一方、偉大なワインと三つ星レストランの料理こそ、最高のマリアージュかと問われれば、これが一概に言えないのも真実だ。しかも、偉大なワインが同時に何本も登場すると始末が悪い。以前、ある人物から招待を受けて秘密の晩餐会に参加した。名前は明かせないが、料理を手がけたのはフランス人の有名三つ星シェフ。そしてワインは、シャトー・ラトゥールの1961年、ラ・ターシュの1964年、ロマネ・コンティの1966年、シャトー・ディケムの1928年など、これらのうちの1本でも、生涯に一度出会えれば幸運な逸品ばかりだった。
 こうなると、ミス・ユニバース級の美女を何人も奥さんにもつようなもので、その中にたとえ北川景子が混じっていても印象が薄い。ラトゥールの61も、ロマネ・コンティの66も美味で感動したことは間違いないのだが、どのような風味だったか記憶が曖昧で、さらに三つ星の料理に至ってはまったく記憶の断片すら残っていないのだ。
 「ワインはあくまで料理の引き立て役に徹するべきで、決して主役になってはいけない」と、先日、あるソムリエから聞かされた。これはまさにワインが出しゃばりすぎ、しかも各々「自分こそ一番」と自己主張したため、結果的にマリアージュが成立しなかった悲劇的な一例と言えるだろう。
 しかして、山本耕史と堀北真希、福山雅治と吹石一恵という、いずれもイケメンと美女の組み合わせは理想のマリアージュと成り得るか……だが、こればかりは本人次第なので一般人が口を挟む問題ではない。(by柳忠之)
「シャトー・ラトゥール」:1855年の格付けで一級に選ばれた、いわゆるボルドー5大シャトーのひとつ。1961年は20世紀の当たり年のひとつ。
「ラ・ターシュ」「ロマネ・コンティ」:ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社が造る、ブルゴーニュの最高峰がロマネ・コンティ。ひとつ畑を挟んだ南の畑で造られるのがラ・ターシュ。 「シャトー・ディケム」・・・ボルドーのソーテルヌ地区で造られる、甘口貴腐ワインの最高峰。
柳忠之・名越康子

柳忠之(やなぎ・ただゆき)
1965年、横浜生まれ。ワイン専門誌記者を経て、97年に独立。フリーのワインジャーナリストに。山梨から地球の裏側のチリまで、世界中のワイン産地を訪問。現地の最新ワイン事情を伝える。ワイン専門誌「ワイナート」のほか、「Madame Figaro Japon」「GOETHE」「Forbes Japan」などライフスタイル誌にも寄稿。日経ムック「Wine Style」の監修を務める。

名越康子(なごし・やすこ)
市庁舎の設計が若き丹下健三だったという、鳥取県倉吉市出身。慶應義塾大学を卒業の後、不動産会社に入社し、ビールもろくに飲めなかったにも関わらず、なぜかワインの道に迷い込む。輸入元勤務を経てワインの原稿書きを始めて、もうすぐ25年 !? 長年フリーランスを続けウエッブサイトWine Press Japanを立ち上げたが、この年になって「就職」することに。現在、Wines & Spirits専門誌「WANDS (ウォンズ)」編集記者。こちらもウエッブをオープンした(http://wandsmagazine.jp)。Facebokページはこちら→https://www.facebook.com/WANDS-1019991378019769/