第7回 胸ぐらつかんでアナグラム

 目に入る言葉をかたっぱしから一字ずつに分解してしまう癖。これは自然と「アナグラム」、すなわち単語を構成する文字を組み替えて別の言葉を作る遊びへとつながってゆく(注・この時点ですでに私の頭の中には、「アナグラム」という言葉から胸ぐらをつかんで脅迫をするアナグマの絵が広がっている)。子どものころ好きだったテレビ番組『マジカル頭脳パワー!!』にも「シャッフルクイズ」というアナグラムを用いたクイズがあり、「同じことを考えている人がいたのか!」という喜びを感じたものである。あの番組から得られた言葉遊びは、今思うと結構多い。所ジョージが異常に強かったので、少年時代の私のヒーローであった。
 私がアナグラムを作るときにまずすることは、言葉の中からそれより短い別の言葉をピックアップして取り出してゆくことで、まさしく「ドン・キホーテの中の手ほどき」と同じ手続きである。ドン・キホーテの場合は余る字が「ン」と「ー」なので組み替えて新しい言葉を作りようがないが、もう少し長い単語だとうまくはまるものが出てくる。

 たとえば、『桐島、部活やめるってよ』という単語があったとしたら、まず「きりしまぶかつやめるってよ」とひらがなに開く。そして一字ずつに分解して、「力士」「鶴」「物価」「しっかり」など抜き出せる単語を取り出せるだけ取り出す。取り出した分は斜線を引いて「使用済み」扱いにする。残った文字の組み合わせ方にさんざん悩む。そしてその結果、こんなのが生まれる。

〆切破って捕まるよ

 なにも〆切破ったくらいでそんな……。まあそのシチュエーションはともかく、ここでもやはり日本語としての完成度の高さをついつい追い求めてしまう。アナグラムの場合、出来るのは一種類とは限らない。他にも同じお題からこんなのが出来る。

つまりメッカ渋谷来てるよ
つぶやき、飯より構ってる

 個人的には元ネタに入っている「、」も活かしたいので、日本語としてのきれいさは少し落ちるけれど「つぶやき、飯より構ってる」はまあまあかなと思ったりする。なお例として『桐島、部活やめるってよ』を選んだのは、単に面白いものが複数出来たからである。精度の高いアナグラムを一文作るのも楽しいが、一つの言葉からたくさん見つけ出すのも燃え上がる。

 私の脳は何らかの言葉に触れた瞬間、まず回文モードが発動し、回文にするには難しそうだと感じたらアナグラムモードに切り替えるという動きになっている。『桐島、部活やめるってよ』は終わりの「よてっる」の時点で日本語としては成立しないと即座に判断し、アナグラムモードへと移行する。それに要する時間はおそらく数秒にも満たない。私の脳の構造は、いかにして言葉で遊ぶかということに極端に特化している。
 そして今こうして目の前にある『桐島、部活やめるってよ』の単行本を、私はいまだに開けていない。タイトルで遊ぶだけでもう満足してしまってなかなか中身を読む気にならない。ある意味これも、回文脳、アナグラム脳の弊害だろう。私は言葉そのものに執着するあまり物語を感知する能力が尋常ではないほど欠けているので、小説が大の苦手なのである。
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山田航(やまだ・わたる)。
1983年生まれ。歌人集団「かばん」所属。2009年第55回角川短歌賞、第27回現代短歌評論賞を受賞。第1 歌集『さよならバグ・チルドレン』で第27回北海道新聞短歌賞、第57回現代歌人協会賞を受賞。同年、第4回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。札幌市在住。

イラスト:タナカ由美