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生きてきた時間をおぼえている?(永遠はうすれ) 生きてきた時間をどこからおぼえている?(永遠はいまは黄色くうすれ) 忘れた海は真っ青なおもて わたしたちのなかにも肥沃な海は 出生の昔話の岸を隔てて広がり 支流は注ぐ あらゆる目覚めていない他者の川 昔話の岸はあんなにぼんやり 輝く島にかわって雨も光る 小止みになってはまた降りしきる 育つ草木は風に乗って たまにこちらまで やってきて芽を出し根を下ろす 育ったタラの木が時々口からピロピロ出てくる それを他人は気味悪くも、魅力的にも思うので 緑色の春の恋愛がやってくる 胞子をとばせ、種をまきちらせ、さかさの死者もそれを祝う (暁方ミセイ) 管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。 石田瑞穂(いしだ・みずほ) 詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。 3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。 |