#10

 
 
生きてきた時間をおぼえている?(永遠はうすれ)
 
 
 
生きてきた時間をどこからおぼえている?(永遠はいまは黄色くうすれ)
 
忘れた海は真っ青なおもて
 
 
 
わたしたちのなかにも肥沃な海は
 
出生の昔話の岸を隔てて広がり
 
支流は注ぐ あらゆる目覚めていない他者の川
 
 
 
昔話の岸はあんなにぼんやり
 
輝く島にかわって雨も光る
 
小止みになってはまた降りしきる
 
育つ草木は風に乗って たまにこちらまで
 
 
 
やってきて芽を出し根を下ろす
 
育ったタラの木が時々口からピロピロ出てくる
 
それを他人は気味悪くも、魅力的にも思うので
 
緑色の春の恋愛がやってくる
 
胞子をとばせ、種をまきちらせ、さかさの死者もそれを祝う
 
 
(暁方ミセイ)
管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。

暁方ミセイ(あけがた・みせい)
詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。

石田瑞穂(いしだ・みずほ)
詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。

3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。