#12 |
目を開いて 煙を纏う山でかなしく揺らぐ不在の鬼火 目を閉じて 紙の街 舌を出して狂うきいろいチェロ ほら 雲の記憶に忘れてきた傘がしずかに雨になるよ 黒い爪を切っていたら夜のすべてを失ってしまった 魔法で彩られた知らない肌の温度 砂漠の夢が走る刹那 水色の太陽を右目に嵌めたら水色の鉛筆を失ってしまった 傷で濡れたきみを見る 不思議だね、ここは 虹色の廃墟があってあとはもうなンにもないのだ 一億年前の耳鳴りが始まる かみさまの煙草に火をつけるとき ひとりで海の秘密を泳ぐのは怖いけど、この手を離したら行くことにするよ 星の眠りの底を流れるレディオ 透明な化石は独語してそこに在る 媚薬ゆらめく64億の死後 あざやかな鯨がざわめく曲線の果て そこには未明のプラネタリウムがひかっていた さよなら 愛して 孤独のぜんたいから滴る蜜のその棘を だって存在しない光のなかで迷ってしまッたから、ぼくは! (和合大地) 管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。 石田瑞穂(いしだ・みずほ) 詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。 3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。 |