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夜が明けて右耳に太陽が飛びこんだ
夏みかん色の光が卵黄のように とろとろと左耳から流れ出す 世界は影のない踊り場 悲しみもなく道もなく 思考が冷たい水たまりのように光っている 日焼けした肌がおもしろいくらい剝けてきた 眠れない脳がくるくる旋回する 砂地に掘った穴から小さな蟹の群れが湧き出す 彼女は都市計画を3Dプリンタで説明する Psycheよ、心の浮き袋をよく水洗いしてください 昼と夜の交替がぐんぐん加速する 平安の海に船出する筏の上の篝火に 見たこともない巨大な烏賊が集まってくるんだ かれらの目はVenusのための精巧なバイオ義眼 (管啓次郎) 管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。 石田瑞穂(いしだ・みずほ) 詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。 3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。 |