#32

稲づまやかほのところが薄の穂(芭蕉)


 
秋風の吹くたびごとにあなめあなめ

小野とは言はじ薄おひけり(無名草子)



目覚めると目がない。

《あなめ》と名づけられ、

浅い穴へと突き落とされた


 
おののいて。

風がすきまをとおりぬけ、

《あやめ》なのだと

伝えたいのだが


 
躑躅の茂みにからまった、どの声が私の声だか

見分けることができない

姿見の井戸が点滅して、

水が死にかけている

次の日の朝には再び、闇が目の穴に殺到する


  (カニエ・ナハ)
管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。

暁方ミセイ(あけがた・みせい)
詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。

石田瑞穂(いしだ・みずほ)
詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。

3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。