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暁の揚羽が乱れをひいて飛ぶ
方位は風の脳内に記憶されていて ミントとおなじ地球の磁紋が導いてくれる セカイはナノミクロンまでぶつかりあう インドのくしゃみがカナダで台風の卵を産み 昼寝するハングル辞書の海原をもちあげ 파도 波 もしくは媒介を介し ある場所から 別の場所へ移動してゆく 乱れ 息づいて 生きて 死んでゆく それだけで 水の分子が隣の分子とぶつかり 波と波 月と潮 海と大地 秋と冬 過去と未来がぶつかり 彼岸花の蕊でマリの揚羽と台湾の揚羽がぶつかる 波は 宇宙でもっともふさわしい場所へ万物を運ぶ あなたがいま いるべき やさしい岸辺へ 生をすこしだけ吹き翔ばすようにして *파도(パド): 韓国語で「波」のこと。 (石田瑞穂) 管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。 石田瑞穂(いしだ・みずほ) 詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。 3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。 |