#39

暁の揚羽が乱れをひいて飛ぶ



方位は風の脳内に記憶されていて

ミントとおなじ地球の磁紋が導いてくれる



セカイはナノミクロンまでぶつかりあう

インドのくしゃみがカナダで台風の卵を産み

昼寝するハングル辞書の海原をもちあげ



파도 波 もしくは媒介を介し 

ある場所から 別の場所へ移動してゆく 乱れ

息づいて 生きて 死んでゆく それだけで

水の分子が隣の分子とぶつかり 波と波 月と潮



海と大地 秋と冬 過去と未来がぶつかり

彼岸花の蕊でマリの揚羽と台湾の揚羽がぶつかる

波は 宇宙でもっともふさわしい場所へ万物を運ぶ

あなたがいま いるべき やさしい岸辺へ

生をすこしだけ吹き翔ばすようにして


*파도(パド): 韓国語で「波」のこと。



  (石田瑞穂)
管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。

暁方ミセイ(あけがた・みせい)
詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。

石田瑞穂(いしだ・みずほ)
詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。

3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。