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「水底に溺れた月が沈んでいたよ、緑色に」
たしかにそんなことをひそひそ話しながら 長いアーケードを歩いてゆく子供たちがいる 「でもね、ほら、金魚すくいの名人のニーニャがね すらりと、百匹目の金魚として、月を空に跳ね上げたんだ それで今夜はスーパームーン、もうじき月が上る」 ちりちりと繊維の粗い和紙を焦がすように 巨大な月が古墳の彼方から空を駆けはじめる それはもちろん天体の運行だから その速度は地上の尺度では知りようがないのだが 光を魂と同一視するのが私たちの習慣、でも あの大きさの魂はちょっとない 光を善と同一視するのが私たちの願い、でも あの大きさの善はどこにもない あの空の鏡は絶句するしかないほど空っぽだ (管啓次郎) 管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。 暁方ミセイ(あけがた・みせい) 詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。 石田瑞穂(いしだ・みずほ) 詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。 3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。 |