#49

ミケランジェロ、天使のような



鑿使い、造化の代理人が、巨大な手で

この海岸線をふたたび刻みはじめるのはいつかな



わたしのともだち、みけらんは

イタリア語も仏教もまったく知らずに

気に入らない景色が映る窓をぱらんぱらん破っていくんだよ



冬がいやなら春にしよう、みけらん

春がいやなら夏にしよう、みけらん

夏がいやなら秋にしよう、みけらん

秋がいやなら冬にしよう、みけらん



でもそんなすべての意匠の取り替えが

けたたましい速報の警告音に追い立てられて

積み上げられた土袋の破れや雨水にも怯え

青ざめ、ぴりぴりして、短い生を生きてゆくなんて

やだね



よろこびを探そう、みけらん

快活になりたいね、みけらん

勇気を取り戻そう、みけらん

とことん生きよう、みけらん



ぱらんぱらん窓を破りつくして

外に出よう、外の外に出よう

外の外の外にじかにふれよう



いいかい、歴史のすべては現在

世界のすべてはここにある



またひとつ波音、たなびく光の音


   (管啓次郎)
管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、比較文学者。この数年はバルカン半島との縁が深い。エッセー集に『斜線の旅』(インスクリプト、第62回読売文学賞)、詩集に『Agend’Ars』4部作(左右社)、『数と夕方』など。

暁方ミセイ(あけがた・みせい)
詩人。横浜の北部、田園と新興住宅地の狭間育ち。既刊詩集に『ウイルスちゃん』(思潮社、第17回中原中也賞受賞)、『ブルーサンダー』(思潮社)など。詩作の他に、エッセイの執筆や朗読活動も行っている。

石田瑞穂(いしだ・みずほ)
詩人。見沼の田園、東京、ブールジュをゆききする。最新詩集に『耳の笹舟』(思潮社、第54回藤村記念歴程賞受賞)。詩人のデジタルアーカイブ・プロジェクト、獨協大学「LUNCH POEMS@DOKKYO」ディレクターもつとめている。公式ホームページ「Mizuho’s Perch」。

3名に大崎清香を加えた共同詩集に、『連詩 地形と気象』(左右社)がある。