管啓次郎詩集 数と夕方

78 57 37
意味なき数字が脳裏で明滅する
海峡を行く白い小型フェリーに
夕方の黄金の光があたって美しい
息子がこっちを見て手をふっているのもわかる
海岸にはアフリカ原産種の大木の赤い花が咲いて
それは何かを祝っているようだ
(「数と夕方」より)

われわれの生のすべての瞬間がそのときその場での地形と気象に左右されているのは、思えば驚くべきことだ。だがそれに驚きつづける人は、いったいどこにいるのだろう。
(略)
生に耐えられなくなった者たちは叫びを上げる。その叫びがつぶやきやささやきや沈黙というかたちをとる者もいる。地形と気象に対する反応が、その背景をなす。ぼくは沈黙に似た無音の情景を、文字で構成しようとした。
(あとがきより)

ウイグル新鋭詩人選詩集 芽生えはじめる言葉たち

ウイグルでは詩でラブレターを書いたり、結婚式で親戚が新婦と新郎の美徳を詩で競うなど、詩の創作と発表がいまも身近に行われています。詩の朗読のできないウイグル人は一人もいないといいます。

本書は詩心のあふれたウイグル文化で育った11人の詩人たちのアンソロジー。『ああ、ウイグルの大地』『ウイグルの詩人アフメットジャン・オスマン選詩集』に続く、日本で読めるウイグル詩集第3弾。収録された詩はどれも一本の樹木のように屹立しています。

海に降る雨 Agend’Ars3 管啓次郎詩集

海岸と海岸は海岸として特に似ていなくても、それぞれの海岸で見る海はその場の固有の海であり同時にひとつにつながったおなじ海だ。地球の海に孤立はない。海は荒れている時もおだやかな時もその力そのもののように感じられる。雨は激しい時もしずかな時もそれぞれに心を育ててくれる。そしてどちらの水も水はひとつ、循環のサイクルにおいて、私たちの中を流れてゆく。私たちの個々の…