2013.8.5 一二三太郎

渋谷ジァンジァンで忘れられないのは1997年の高橋竹山の最後の演奏です。竹与さんの二代目竹山襲名披露公演での出演でした。竹山の最後ということで会場は満席でした。竹山ががんであったことは観客に知られていたように記憶します。出て来た竹山の体調はどうみても万全ではないようでした。一音でも聞き逃すまいと、全身を耳にして聴きました。ほかの観客もそうだったはずです。その演奏は、どこか弱々しく完全ではないようでした。しかしそれゆえに竹山の生き方や精神が芯となって三味線から溢れているようでした。聴き終わったのちしばらくぼーっとしていました。劇場主・高嶋さんの『ジァンジァン狂宴』を読むと、このとき竹山のがんはかなり進行し、演奏は命にかかわると周囲は猛反対していたそうです。しかし竹山は「ダメになった竹山もよく見てくれ」と語って出演したそうです。そんな状況でも舞台の竹山が笑っていたことを思い出します。