仕事本
わたしたちの緊急事態日記
尾崎世界観 町田康 花田菜々子 ハイパーミサヲ 瀧波ユカリ ヤマシタトモコ 大橋裕之 温又柔 浅生鴨 佐藤文香 清田隆之 川本三郎 高草木陽光 星野概念 轡田隆史 山下敦弘 天真みちる 北村明子 立川談四楼 内沼晋太郎 鏡リュウジ 他(全60職種77人)
新型コロナウイルス感染拡大──前代未聞の事態を迎えたわたしたちの文学
書誌情報
- 定価
- 2,200 円(税込)
- 電子書籍価格
- 2,200 円(税込)
- 刊行日
- 2020年06月17日
- 判型/ページ数
- 四六判変形 並製 448ページ
- ISBN
- 978-4-86528-283-2
- Cコード
- C0095
- 重版情報
- 2
- 装幀・装画
- 鈴木千佳子/装幀
内容紹介
“普通の毎日”が一変した2020年4月、ほかの人はどう過ごしていたんだろう。 パン屋、ミニスーパー店員、専業主婦、タクシー運転手、介護士、留学生、馬の調教師、葬儀社スタッフ……コロナ禍で働く77人の日記アンソロジー!!!
ミニスーパー店員……「お一人様一点限り」のトイレットペーパーをめぐって
四月七日(火) ピークは過ぎたと思うが、未だタイミングが悪いと入手するのに苦労する品ではある。うちの店も「お一人様一点限り」の制限付きだ。すると一人のお婆さんが、「友達が困っているから友達の分も買って行ってあげたい」とレジに来た。流石にルールを守らないわけには行かず、「申し訳ございません」と丁重にお断りした。お婆さんは12ロール入りのトイレットペーパーを1つだけ買って、店を出た。何だか申し訳なく思っていたのだが、すぐにお婆さんを追いかけた。
馬の調教師……無観客競馬でデビュー戦を迎える馬に寄り添う
四月一七日(金) 川崎競馬開催最終日 この日、自分の厩舎から競走馬としてデビュー戦を迎える仔がおり、オーナーさんも来場はされましたが、今開催は来場出来ても、普段は入れる僕らのゾーンやパドックなどには一切出入り禁止になっています。レース前のジョッキーとオーナーさんとの作戦会議や、レースの回顧など出来ず、仕方ないことですが、そういった楽しみも新型コロナウィルスの影響で奪われています。
専業主婦……退屈そうな息子、不安な日々にピリピリしている夫を力強く支える
四月二二日(水) テレビで人と密にレストランで食事する姿を見て、楽しそうで懐かしくて悲しくなった。夫が帰宅してすぐ手洗いうがいをしないので、注意をしたら逆ギレされた。夫への怒りおさまらず、夕食の用意を放棄しようかと思ったけれど、冷蔵庫の野菜が腐るし予算もない。何よりも夫の個人的外食も避けてコロナ感染のリスクを減らしたい。
ライブハウス店員……「わたしなんかが」という思いに変化が
四月二四日(金) お行儀の良い人間ではないから、おとなしくおうち時間はできないし、そもそも仕事をしないと、いまできることを続けないと、自分の生活どころかうちの店舗、うちの店舗どころか会社、会社どころか文化、エンタメ業界が死ぬらしい。わたしがいないと文化が死ぬことだってもしかしたらありえる気がしてきた。
葬儀社スタッフ……「父がコロナウイルスで亡くなったかもしれないのですが」
四月八日(水) 霊安室の隣の控室で会ったAさんは、背の高いまじめそうな中年の紳士だった。私が名乗ると少し安心した表情を見せた。「こういうの初めてなので……」とすまなさそうに言う。 (ええ、私も伝染病のケースは初めてなんです)と心の中で思ったが、そんな不安は悟られてはいけない。仮にコロナウイルスでなくても、肉親を亡くした遺族は、不安な気持ちで一杯なのだ。まずは安心させることだ。
この“生活"は誰かの“仕事"が支えている!
2020年4月、働き方は一変した──
タクシー運転手からホストクラブ経営者まで、コロナ禍で働く77 人の“仕事” 日記アンソロジー。
はじめに
仕事、終わり~。今日のお風呂は、登別温泉風かな別府温泉風かな。なんていう、ついこの間までのおだやかな日常は、コロナウイルスによって一変させられました。仕事がなくなったり、やり方が変わったり、突然忙しくなったり。ほかの人の仕事が気になりはじめました。この危機、どうやって乗り越えるんだろう?
緊急事態宣言が発せられた日、左右社編集部はすぐさま、仕事をテーマにした本をつくるべく、七七人のさまざまな職業の人たちに、四月の日記を書いてもらうようお願いしました。それを構成したのが本書です。
有名な人も無名な人も、二〇代も八〇代も、命の危険を感じながら治療する医者も、風評に悩まされるタクシー運転手もいます。日記を読むうちに、これまで職業名でしか認識していなかった人も、ひとりひとりの素顔が見えてきました。翻ってみれば、納豆を食べる幸せひとつとっても、どれだけの人の仕事でなりたっているか。
ひとつの仕事は、誰かの生活につながり、その生活がまた別の人の仕事を支えている。本書は仕事辞典であると同時に、緊急事態宣言後の記録であり、働く人のパワーワードが心に刺さる文学作品でもあります。
仕事は続くよ、どこまでも。