満天の花
佐川光晴
西欧列強や幕府へも毅然と立ち向かう通詞・花。 時代の常識にとらわれず、才能と意思で生き抜く女性を描いた、佐川光晴の新境地!
書誌情報
- 定価
- 2,530 円(税込)
- 電子書籍価格
- 2,420 円(税込)
- ジャンル
- 文芸・評論・エッセイ
- 刊行日
- 2021年05月08日
- 判型/ページ数
- 四六判 上製 552ページ
- ISBN
- 978-4-86528-026-5
- Cコード
- C0093
- 重版情報
- 2
- 装幀・装画
- 鈴木成一デザイン室/装幀、カワタアキナ/装画
内容紹介
文芸評論家・末國善己氏推薦! 「女性通訳を主人公に、幕末を外交の視点で捉えた斬新な時代小説だ」
勝海舟と出会った青い目の少女の運命が、日本の歴史を大きく動かす 時は幕末、長崎。オランダ人商館員と遊女との間に生まれた少女・花。 青い目を隠して暮らしていたが、勝海舟と出会ったことで花は激動の世界史の渦の中に投げ込まれる。
西欧列強や幕府へも毅然と立ち向かう通詞・花。 時代の常識にとらわれず、才能と意思で生き抜く女性を描いた、佐川光晴の新境地!
\大絶賛コメントも続々!/ ●執筆の動機のひとつに、「かつて『蝦夷地』と呼ばれ、明治になって『北海道』と改称された広大な島が一片たりとも異国に獲られなかったのは何故なのか」という疑問があったそうだ。本書を読むと、この疑問も氷解する。 ──文芸評論家・細谷正充(北海道新聞・朝刊 2021.06.06号 掲載) ●誤解を恐れず言うならば、『満天の花』は幕末を舞台にした壮大な少女小説だ。──文芸ジャーナリスト・内藤麻里子(東京新聞・朝刊 2021.07.03号 掲載)
「おまえさんに、おいらの右腕になってもらいてえ。もちろん給金も払う。オランダ語と英語が両方できるんだ。気前よく月々三両と言いたいが、幕府の懐は素寒貧でね。泣いてもらって、二両でどうだい」 あまりの高額に、花は返事ができなかった。日本では、通詞の給金はとても高いとクルチウスが言っていたのは本当だったのだ。 「月に二両じゃ、安いかい? それじゃあ、色をつけよう。異国船に乗りこんでの談判には、給金とは別に一日につき六匁だす。異国まで行くさいにも同じ六匁にしてもらえるとありがてえが、どうだい、このあたりで手を打ってくれねえか?」 勝さんは、魚河岸の仲買人のような伝法な調子で言った。もとより花は給金の高に異存はなかった。それどころか、異国船に乗ったり、異国にも行けるかもしれないと知り、うれしさで膝においた手が汗ばんだ。 「未熟者ではございますが、一生懸命につとめますので、よろしくお願いいたします。」
「第二章 長崎海軍伝習」より