男神乱舞!誰もが知っている古典作品の性別を変え、ボーイズラブ化したポップな現代語訳シリーズ第二弾。
書誌情報
- 定価
- 1,870 円(税込)
- 電子書籍価格
- 1,870 円(税込)
- ジャンル
- 文芸・評論・エッセイ
- 刊行日
- 2019年01月31日
- 判型/ページ数
- 四六判 並製 184ページ
- ISBN
- 978-4-86528-219-1
- Cコード
- C0393
- 装幀・装画
- 鈴木成一デザイン室/装幀、はらだ/装画
内容紹介
誰もが知っている古典作品の性別を変え、ボーイズラブ化したポップな現代語訳シリーズ第二弾。日本最古の歴史書『古事記』が、八百一万(やおいよろず)の男神による愛憎コメディとして蘇る! 神々の愛、嫉妬、裏切り、殺戮……軽快な筆致で心の奥底を揺さぶる作家・海猫沢めろんが描く、日本一尊い天地創造の物語。 はじめての古典、はじめてのBLにも最適な一冊。 ★初版のみ漫画家・はらだによる装画イラストカード封入!★ 触れ合った瞬間、国が生まれた。 親愛なる陛下、わたくし安万侶、ついに陛下の歴史を物語った尊い本を書き上げましたことを謹んで申し上げます。──序 「ならぬ……兄弟でこのようなこと―高天原から見ている者がいるかも知れぬ」
そう言って身を引きはがそうとすると、弟は接吻で兄の唇を塞いで、
「兄上。我々は神。神に許されぬことはございませぬ。それにこれは国産みに必要な儀式でございます」──伊邪那岐命と伊邪那美命の章 既刊・続刊
2018年10月刊行 雪舟えま 訳『竹取物語・伊勢物語』/装画:ヤマシタトモコ
2019年3月刊行予定 王谷晶 訳『怪談』(ラフカディオ・ハーン 著) 【一部noteにて無料公開中】
一 伊邪那岐命と伊邪那美命の章 ❖古事記 序 一 過去の時代、八百一万(やおいよろず)の神 親愛なる陛下、わたくし安万侶、ついに陛下の歴史を物語った尊い本を書き上げましたことを謹んで申し上げます。
このあまりにも素晴らしい書物について、きっと陛下もはやく詳細をお聞きになられることをご所望かと存じますのでご説明させていただきます。
本書では、まず我々の住むこの世界のなりたちから語らせていただいております。
そもそもこの世界のはじまりは混沌に満ちており、あらゆるものが混じり合っておりました。そのうちに世界が天と地にわかれ、最初に三人の神がお生まれになり、つぎに陰陽の属性を持った伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)というふたりの神が誕生いたしました。
このふたりは大変仲の良い恋人であり、さまざまな神を生むことになります。
有名なところでは冥界からかえってきたときに伊邪那岐が目を洗うと、太陽の神—天照大御神(アマテラスオオミカミ)と、月の神──月読命(ツクヨミノミコト)が生み出されました。海で水を浴びようものなら、何万もの数えきれない新しい神々が生まれたのです。
世界のはじまりのことは詳しくわからないにせよ、とにかくこうした八百一万の神のことはいまだに語り継がれております。
天照大御神が天岩戸に隠れたり、その弟の建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)が八俣の大蛇を退治したり、神々が天の河原で会談をしたり、そうした神話の時代を経て、王の世に続く基礎がつくられていきました。
雷の神である武甕槌命(タケミカヅチノミコト)が、出雲で大国主神(オオクニヌシノカミ)に国を譲るようにお話されて国内も治まり、これによって天孫降臨がなされ、ひとりの王が大和の国をめぐりました。
これが陛下のご先祖様である初代の王でございます。
ご先祖様は天から剣を授かり、川からでてきた熊や、尾のある人と戦い、巨大なカラスに導かれて吉野へ行かれたり、近江の高千穂の宮で国境をさだめ、大和の飛鳥の宮で一族の系統をお正しになりました。
その後も、ある王は戦歌とともに敵を討ち、夢で見た神様を祀り、賢王と讃えられ、またある王は、慈悲深く民を扱ったため、聖王と讃えられたのです。
歴代の王はみな、いろいろな性格をお持ちでしたが、どの方々もみな過去に学び、道徳的かつ現実的に清く正しい生き方をされたのでした。序の二 この本がかかれるまで 月日が経って、飛鳥の清原の大宮において天下をお治めになったある王子がおりました。
この王子はいずれ四十代目の王になる資格を備えたお方でしたが、ある日、夢で聴いた歌により未来を知り、甥である三十九代目の王を倒す決意をされ、吉野の山で準備をはじめます。
多くの支持者を集めながら東国を進み、兵を興して山河を越え、軍隊は雷のような勢いで進攻いたしました。
赤い旗のもとに戈や剣を振るう兵士たちは士気も高く、敵兵はまるで瓦が割れるように逃げ去り、わずか十二日たらずで戦は大勝利に終わりました。
戦いに使った牛馬を野に放ち、すっかり穏やかな気分になって大和の国に帰ると、旗や戈をしまって、舞い踊りながらまた飛鳥の宮に戻られ、酉の年の二月に、清原の大宮において、初代より数えて四十代目の新王として即位なされたのです。
この王は、その徳たるや空前絶後、世界じゅうの歴史を紐解いてもかつてないほどのすばらしい方でした。
神器を手にして天下統一、陰陽五行の理を知り、人の道を説き、民を導いて国家を豊かにされました。そればかりではなく、知識欲も旺盛でしたので歴史を学んでいるときにふと、こんなことを申されました。 「少し小耳に挟んだのだが、この国に伝わっている帝紀と旧辞という歴史書はすでに多くの間違いがあるらしいではないか。私の時代にそれを正しておかねば、そのうちまた間違った歴史が伝わってしまう。これは国家の根底にかかわることではないか? いまから旧辞と帝紀をあわせて書き直し、正しい歴史を後世に伝えようと思うのだが、この役目にふさわしい男はおらぬか」 ここで白羽の矢が立ったのが稗田阿礼(二八歳)という男です。
彼は博覧強記の切れ者でありながら性格も良かったので、帝紀と旧辞の編纂を任されることになりました。
しかし時は流れ、世代が変わってもまだそれは完成していませんでした。 序の三 この本に込めた想い 以上のことはもちろん聡明なる陛下もまたご存知のことであり、僭越ながらわたくしめが口を挟むことではございませんが、念の為確認したまでであります。
忘れもしないあの日、和銅四年九月一八日、陛下はわたくし安万侶に、
「安万侶よ、稗田阿礼が記憶している旧辞を新たに記し定めて私に献上せよ。この仕事は私が心より信頼を寄せるおまえにしかできぬ。くれぐれも任せたぞ」
と仰せになられましたので、謹んでわたくしめが新たにその任を承りました。
完成までわずか四ヶ月ですが、このあいだ試行錯誤と苦労がございました。
旧辞は非常に昔に書かれたものでしたので、言葉も意味も少なく、かなりわかりづらいのです。
訓読みの漢字だけでも、音読みだけでも、どうしても不具合が出てしまいます。そもそも漢字というものは漢からきたもので和語とはちがうわけでして、我々の国の言葉の機微をなんとかして伝えるためにいろいろな使い分けをしてみたり、意味を込めたりしておりますが、わたくし安万侶は、とにかく今の時代に即して読みやすくすることを目指しました。
注釈も多くあったのですが、それらもふくめて、全部本文にまとめてみました。
書きはじめると筆が乗ったこともあり、天地のはじまりから百年前くらいまでの物語となりました。
気持ちが先走っているぶん、原典を疎かにしているように見える部分もありますが、それはきっと気の所為です。
わたくしの書いたこの古事記こそが陛下の真実を伝える唯一無二の書物であります。
上巻中巻下巻、三冊を書き上げ、このたび写本室から納品されたのでまずは陛下にぜひお読みいただきたく、謹んで献上いたします。 和銅五年正月二十八日 正五位の上勳五等 太朝臣安万侶