詩人・野上彰。 その独特な自由と軽やかさに彩られた詩世界の全容が、半世紀のときを越えて、いま初めて甦る。
書誌情報
- 定価
- 2,640 円(税込)
- ジャンル
- 詩・短歌・俳句・川柳
- 刊行日
- 2019年05月30日
- 判型/ページ数
- 四六判 上製 184ページ
- ISBN
- 978-4-86528-236-8
- Cコード
- C0092
- 装幀・装画
- 松田行正+杉本聖士/装幀
内容紹介
詩人・野上彰。 その独特な自由と軽やかさに彩られた詩世界の全容が、半世紀のときを越えて、いま初めて甦る。 【全19曲収録CD付】
詩と音楽の美しい融合──。
「オリンピック讃歌」や「落葉松」、森繁久弥「銀座の雀」など、
詩・訳詞・童謡を数多くのこし、音楽的で透明感あふれる言葉を紡いだ野上彰には多彩な顔があった。
豊島与志雄らと結成し、戦後の芸術前衛運動をリードした「火の会」を結成し、
サトウハチローや草野心平、川端康成と公私にわたって交流し、
東京オリンピックの開閉開式合唱曲「オリンピック讃歌」を訳詞し、閉会式での大コーラスに参加。
この58年間のそのきらめくような活躍の核心は、詩人だった。
猪熊弦一郎装画で生前唯一刊行された詩集『前奏曲』を復刻収録。
「オリンピック讃歌」ほか作詞、訳詞を手掛けた曲など19曲を収めたCD付愛蔵版。
23 あなたの瞳のなかに世界が消えてしまうとき
火山の村は灰を降らした
戀人よ
ぼくたちの神話を展べよう
滿月は青い花火を打ちあげて
幼い日の歌を飾り
朴はやさしいそよかぜを招いて
ぼくたちの食卓をあたためる
泉のもの倦い音につつまれて
あなたは静かに倚りかかる
ああ
あなたの瞳のなかに世界とぼくが消えるとき
24 ぼくは出發しよう
神々の證しを絶え間もなく噴きあげる火山の頂きを越えて
より深い沈黙の支配している大地の下に
ぼくはあらゆるものの影だけを信仰しよう
人人が大地の上にこぼして行つた影を探し集めて
無限のひろがりを持つ塔を建設しよう (「前奏曲」より)
野上彰の色んな可能性のなかで最もきわだっていたのは矢張り詩だった。他の可能性の基盤をなしていたものも結局はポエジイだった。その意味で他の何者であるよりも彼は先ず詩人だった。
この詩人は然し普通の眼でみると異常に偏向していて、詩作品の殆んど全部が、恋愛をテーマにしている。こんな例は、わが国の現代詩人のなかでは類のないことであって、それだけでも既に特異な存在だった。死後『歴程』に発表された「望郷」的な作品はむしろ例外であって、その全作品の九十パーセントが恋愛の詩であった。そうでない作品でも、すべてが恋愛詩であると錯覚させるような傾向のものばかりだった。そんな不逞な大胆と、また純粋とアマノジャクと駄々ッ子と天衣無縫とがゴチャゴチャ入りまじった彼の人間のなかはいつも新鮮に息づいていた。
(草野心平「野上彰の人と作品」より)
CD収録内容
オリンピック讃歌(Olympic Hymm)(訳詞:野上彰)合唱(1963年)/虻は飛ぶ(作詞:野上彰 作曲:高田三郎)(1973年)/阿波祈祷文(作詞:野上彰 作曲:清水脩)(1969年)/皇太子殿下御成婚に捧ぐ祝婚歌(詩:野上彰)朗読:野上彰(1959年)/風に吹かれて(Blowin’ In The Wind)(作詞・作曲:ボブ・ディラン 訳詞:野上彰)(2015年)/パフ(Puff, The Magic Dragon)(作詞:レオナルド・リプトン 作曲:ピーター・ヤロー 訳詞:野上彰)(2011年)/ロンドンデリーの歌(Londonderry Aire)(アイルランド民謡 訳詞:野上彰)(1961年)/落葉松(作詞:野上彰 作曲:小林秀雄)(2016年)/銀座の雀(作詞:野上彰 作曲:仁木他喜雄)森繁久彌(1955年)/夜の子守唄(作詞:野上彰 作曲:寺島尚彦)(1958年)/よいとまけシャンソン(裏町)(作詞・作曲:野上彰)(1981年)/童話~陽かげの花に寄せて(作詞:野上彰 作曲:團伊玖磨)淡谷のり子(1953年)/冬のシャンソン(作詞:野上彰 作曲:宅孝二・野上彰)(1967年)/火の会の歌(作詞:野上彰 作曲:宅孝二)(2017年)/わが子よ(作詞:野上彰 作曲:藤山一郎)(2019年)/子守歌(作詞:野上彰 作曲:團伊玖磨)(1970年)/徳島市内町小学校校歌(作詞:野上彰 作曲:長谷川良夫)(録音年不明)/こもりうた(作詞:野上彰 作曲:宅孝二)(2019年)/ショパン 24の前奏曲 作品28(抜粋)ピアノ:アルフレッド・コルトー(1933年)*野上彰の愛聴していた作品