小布施の「鳳凰図」の謎

Digital × 北斎 小布施の「鳳凰図」の謎

監修:安村敏信 執筆:久保田巌 国枝学 荒井美礼 日野原健司 向井大祐 金田功子 市村次夫 渡辺正己

北斎最晩年の傑作「鳳凰図」に、最新技術で迫る

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書誌情報

定価
2,640 円(税込)
ジャンル
刊行日
2025年06月30日
判型/ページ数
B5判変形 並製 224ページ
ISBN
978-4-86528-472-0
Cコード
C0071
装幀・装画
装幀|マツダオフィス

内容紹介

至高にしてアバンギャルドな、北斎最晩年の巨大天井絵「鳳凰図」。

その制作の裏側に、最先端のデジタルスキャン技術で挑む——


印象派をはじめ、世界の芸術文化に影響を与えた葛飾北斎。

代表作「富嶽三十六景」を70代で描き上げた北斎には、さらにその最晩年に手掛けた知られざる肉筆画の大作があった。それが長野県小布施町の岩松院本堂に残された天井絵「鳳凰図」である。

当地の豪商、高井鴻山の招きに応じ、江戸から240キロ離れた小布施まで数度足を運び、手掛けたとされるこの天井画「鳳凰図」にこのたび、高精細デジタルスキャンがなされた。

完成した精密な複製作品によって、肉眼では見えなかった細部の筆致が鮮やかに甦り、新たな鑑賞体験を提供するばかりか、浮世絵研究者たちに対しても新たな分析、読解へと結びつく大いなる刺激となっている。

最新技術との融合により、「画工」北斎の新たな側面に光を当て、美術展示の新たな可能性を切り開く一冊。

 

◉図版230点超! 9名による論稿を収録した充実の内容

はじめに


序 安村敏信(北斎館館長)


一、最晩年の北斎と「鳳凰図」  画業の果て、岩松院にて筆を執る

 北斎館について 荒井美礼(北斎館学芸員)

 岩松院天井絵「鳳凰図」における制作の経緯と概要
 ──美術作品のデジタル化における希望と課題
 荒井美礼(北斎館学芸員)

 画狂老人卍
 ──北斎最晩年の暮らしと画業
 日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)


二、「鳳凰図」に挑む 高精細デジタル解析で新たな魅力と謎を発見する

 岩松院について

 「Digital×北斎」プロジェクトによる岩松院本堂天井絵「鳳凰図」のデジタル化
 ならびにデジタルデータの活用について
 国枝学(NTT ArtTechnology)

 北斎「大鳳凰図」奇跡の創造
 ——高精細デジタル化で解き明かされた新事実
 久保田巌(株式会社アルステクネ)

 「岩松院天井絵鳳凰図」の制作工程の解析
 ──下絵と天井絵の図像比較
 向井大祐(日本画家)


三、北斎と鴻山 江戸で出会い、小布施で交わる

 髙井鴻山について

 信州小布施の髙井鴻山と葛飾北斎
 金田功子(高井鴻山研究者)


四、北斎と小布施 「小さな町」が、アバンギャルドとしての北斎を発見する

 小布施について

 北斎が惹き寄せられた町、小布施
 市村次夫(北斎館理事長)

 岩松院に描かれた天井絵「鳳凰図」を後世に伝える
 渡辺正己(曹洞宗梅洞山岩松院第三十世住職)


資料編

 北斎大鳳凰図
 ──北斎小布施諸遺作と髙井鴻山の功績
 由良哲次(歴史哲学者、美術史家)

 葛飾北斎年譜


おわりに

『小布施の「鳳凰図」の謎』に関する情報

安村敏信 (ヤスムラ・トシノブ)

安村敏信(やすむら としのぶ) 1953年富山県生まれ。日本美術史学者。北斎館館長、静嘉堂文庫美術館館長。 狩野派を中心に江戸美術の研究やユニークな展覧会企画などに幅広く携わる。板橋区立美術館館長、大倉集古館学芸部顧問などを歴任。著書に『浮世絵に遊ぶ』(新潮社)、『もっと知りたい狩野派 探幽と江戸狩野派』(東京美術)などのほか、『定本 日本絵画論大成 第4巻』(ぺりかん社)の編集校訂、『暁斎百鬼画談』監修・解説(ちくま学芸文庫)、『日本美術全集13 宗達・光琳と桂離宮』(小学館)責任編集など多数。

荒井美礼 (アライ・ミユキ)

荒井美礼(あらい みゆき) 1989年、長野県小布施町生まれ。2012年、京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)芸術学部を卒業後、学芸員として北斎館に勤務。北斎が晩年小布施で描いた作品を中心に、さまざまな角度から北斎作品をとらえた展覧会を企画。「美術館の可能性」の視点から、北斎作品と現代アーティストとのコラボレーション企画、高精細レプリカを使った海外での展覧会も試みる。主な企画展に「あやしい浮世絵」「北斎〝水族〟館へようこそ!」「あなたは信じる? 摩訶不思議」「いざ、勝負!」、イギリス・セインズベリー日本藝術研究所と共同企画「Hokusai: A Vision Above」「Hokusai: Art Beyond Boundaries」など。

日野原健司 (ヒノハラ・ケンジ)

日野原健司(ひのはら けんじ) 太田記念美術館主席学芸員。1974年千葉県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科前期博士課程修了。江戸から明治にかけての浮世絵史、ならびに出版文化史を研究。太田記念美術館にて「北斎と暁斎―奇想の漫画」「北斎漫画―森羅万象のスケッチ」「葛飾北斎 冨嶽三十六景―奇想のカラクリ」などの展覧会を担当。著書に『ようこそ浮世絵の世界へ』(東京美術)、『かわいい浮世絵』(東京美術)、『北斎 富嶽三十六景』(岩波文庫)、『ようこそ北斎の世界へ』(東京美術)など多数。

国枝学 (クニエダ・マナブ)

国枝 学(くにえだ まなぶ) 株式会社 NTT ArtTechnology 代表取締役社長。 1987年NTT入社。電話局を活用した業態開発プロジェクト、宣伝部広告部門を経て1994年より日本の電話事業100周年を記念して構想された科学技術と芸術文化の融合をテーマとする文化施設「NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]」の開設準備~運営に携わる。1998年から2020年までマルチメディアビジネス開発部~NTT-X~NTTレゾナントに在籍し、ポータルサイトgooに従事。2020年12月にNTT ArtTechnologyを設立し代表取締役社長に就任。再び「NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]」に携わるとともに、文化財のデジタル化およびデジタル化したデータを活用した新しい鑑賞方法の開発、それらを通じた地域活性化に取り組んでいる。宣伝部広告部門在籍時に「情報文化研究フォーラム」(座長:松岡正剛)ならびにその成果を紹介する企業出版『Books In-Form』シリーズ(NTT出版より刊行)を担当。『情報の歴史』(松岡正剛監修)、『理解の秘密』(R・S・ワーマン著)などに携わる。寄稿に「戸田ツトム氏とNTT」(『ユリイカ 増刊 総特集=戸田ツトム』2021年1月、青土社)など。

久保田巌 (クボタ・イワオ)

久保田巖(くぼた いわお) エンジニア、アートディレクター。株式会社アルステクネCEO。文化財のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の領域で、30年以上の実績を有する。オリジナル作品の微細な質感や反射情報を再現する「3次元質感画像処理技術DTIP」を中核とし、多角的な運用技術や「リマスターアート」を開発する。デジタル文化産業の創出と人間の創造性の革新を目標に、国内外の多くの文化財のDXを推進している。特に葛飾北斎の作品のDXは百数十作品におよぶ。著書に『臨場鑑賞 生まれ変わったオルセーの美』(エムディエヌ、2014年)、『北斎と廣重 美と技術の継承と革新』(リックテレコム、2022年)、監修書に『北斎と廣重』など。

向井大祐 (ムカイ・ダイスケ)

向井大祐(むかい だいすけ) 1988年、岐阜県生まれ。2017年、東京藝術大学大学院文化財保存学専攻(保存修復日本画)修了、博士号(文化財)取得。日本画家として活動する傍ら、江戸時代の浮世絵を中心に古典絵画の実技的な研究・復元制作も行う。パブリックコレクションとして東京藝術大学、すみだ北斎美術館など。

金田功子 (カネダ・イサコ)

金田功子(かねだ いさこ) 昭和17年(1942年)、小布施町生まれ。明治大学文学部史学地理学科卒。東京・ラテイス社(出版)を経て帰郷。平成元年(1989年)、ひいらぎ書房を設立、情報誌『栗の詩』を年二回発行(50号まで)。平成25年(2013年)、髙井鴻山記念館館長に就任。現在は髙井鴻山研究者。

市村次夫 (イチムラ・ツギオ)

市村次夫(いちむら つぎお) 1948年長野県生まれ。北斎館理事長。株式会社小布施堂、株式会社桝一市村酒造場代表取締役。1971年、慶應義塾大学法学部卒業、同年信越化学工業入社。経理、人事、財務などを経験。1980年、父親(市村郁夫・当時の小布施町長)の逝去により、長野県小布施町にある家業の酒屋(株式会社桝一市村酒造場)と栗菓子屋(株式会社小布施堂)を継ぐ。以来「町並み修景事業」をスタートとして、景観や建築を主体とした地域づくりに尽力。また事業面でも、レストランや宿泊施設の営業活動やイベントの開催などにより、地域の魅力拡充に貢献。1980年、北斎館理事就任。1998年、日本建築学会文化賞受賞。2018年、北斎館理事長就任。

渡辺正己 (ワタナベ・ショウキ)

渡辺正己(わたなべ しょうき〔本名 まさき/旧姓 高橋〕) 曹洞宗梅洞山岩松院第30世住職。1976年、長野県長野市生まれ。静岡県静岡市で育つ。2000年、立命館大学経済学部卒業後、しずおか信用金庫(現・しずおか焼津信用金庫)入庫。2014年、岩松院第29世住職渡辺章宏について得度し、2017年まで可睡斎専門僧堂(静岡県袋井市)にて修行。2018年、岩松院副住職。2021年、第29世住職渡辺章宏の逝去により、岩松院第30世住職に就任。

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