阿部ヤヱに学ぶ伝承の教育

阿部ヤヱに学ぶ伝承の教育

最後の伝承者・阿部ヤヱが語る文字に頼らない「人の一生を育てる伝承」の世界

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書誌情報

定価
3,300 円(税込)
電子書籍価格
2,970 円(税込)
ジャンル
刊行日
2025年06月27日
判型/ページ数
四六判 上製 336ページ
ISBN
978-4-86528-477-5
Cコード
C0037
重版情報
1
装幀・装画
松田行正+倉橋弘

内容紹介

「わからないか? わからなくていいんだ。わからなくても、聴いていることが大事なんだ。」

祖父母世代から孫世代へ、暮らしのなかで人から人へうけつがれてきた伝承。阿部ヤヱは最後の伝承者として、遠野の地で「伝承を伝える」ことに生涯を捧げてきた。阿部が伝えようとしてきた、文字に頼らない「人の一生を育てる伝承」の世界を、社会教育、地域教育の観点から描き出す。

 


現代に生きる私たちは、「文化」を何かフォーマット化されたものや、わかりやすい具体において思い浮かべがちだ。わらべ唄と聞けば、「花いちもんめ」や「かごめかごめ」など、過去に唄い聴いた、ある「唄」を思い浮かべるだろう。昔話と聞けば、動物が出てきたり、奇想天外な、実際のわたしたちの暮らしとはかけ離れたファンタジーのように思うかもしれない。
けれども阿部は「暮らし(人生)そのものがわらべ唄」と語る。暮らし・人生とわらべ唄がイコールに結ばれるとは、どういうことなのだろう。そして、阿部がわらべ唄や昔話を通して伝えようとする伝承とは、いったい何なのか。(「第一章  阿部ヤヱと抵抗の精神」より)

プロローグ
1 なぜ教育学から伝承者を描くのか
2 伝承の教育に向きあう方法について
第一章 阿部ヤヱと抵抗の精神
1 伝承者・阿部ヤヱの人生の描き方
2 庶民の思いと生き方を引き継ぐ
3 農婦として再び社会へ―「まんずなる」実践に注目して
4 抵抗としての「表現」と「伝承文化」
第二章 伝承者の「研究」をめぐって
1 伝承者の学びの三段階
2 阿部ヤヱにおける「研究」の過程
3 考察―彼女が「確かめつづけた」こととは何か
第三章 歌人・阿部八重をめぐって
1 もうひとつのライフストーリーに着目して
2 歌人・阿部八重への焦点化
3 短歌にみる、非合理性への葛藤と納得の過程
4 「非合理性」からみる主体の自己形成
5 「非合理性」へ向きあう姿から見えてくるもの
第四章 「人の一生を育てる伝承」とは
1 様式—その体系性と段階性
2 目的—自らを育て続ける人を育むこと
3 気持ち・ことば・行動を共にたちあげる(ビデオ分析一)
4 生涯にわたる段階的な応答の知の獲得(ビデオ分析二)
第五章 阿部ヤヱ伝承論の教育学的位置
1 阿部ヤヱ伝承論の社会的位置
2 教育学・社会教育学における位置
終章 伝承を共有する共同体としての地域
1 物語・伝承と地域―遠野のまちづくりの生成過程をたどって
2 阿部ヤヱの伝承における地域
あとがき 人の一生を育てる伝承の未来
参考文献一覧

『阿部ヤヱに学ぶ伝承の教育』に関する情報

岡幸江 (オカサチエ)

1968年、福岡県生まれ。九州大学大学院教育学研究科単位取得退学、博士(教育学)。埼玉大学教育学部准教授等を経て現在、九州大学大学院人間環境学研究院教授。専門は社会教育学・地域教育論。主な著作に『ポストコロナの公民館』(共著、大学教育出版、2025)、『地域づくりと社会教育的価値の創造』(共著、東洋館出版社、2019)、『地域学習の創造』(分担執筆、東京大学出版会、2015)などがある。

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