わたしのおとうさんのりゅう

わたしのおとうさんのりゅう

『エルマーのぼうけん』からはじまる、「私」と「私」に連なる人々をめぐる道行き

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書誌情報

定価
2,200 円(税込)
電子書籍価格
1,760 円(税込)
ジャンル
刊行日
2025年10月17日
判型/ページ数
四六判 並製 280ページ
ISBN
978-4-86528-491-1
Cコード
C0093
重版情報
1
装幀・装画
装幀/水戸部功

内容紹介

 

私は、『エルマーのぼうけん』を日本で初めて読んだ子どもです。

父はやくざでした。母は芸者でした。

 

高度経済成長期に入りかけた頃の東京の板橋区の裏町の裏通りをさらに入ったところで、「私」は夢中で本を読み、父と母は過去を隠して暮らしていた。

『少年少女世界名作文学全集』、『風にのってきたメアリー・ポピンズ 帰ってきたメアリー・ポピンズ』、『シートン動物記』、そして父に読み聞かせてもらった『エルマーのぼうけん』と『ドリトル先生アフリカゆき』……

「私」の一生を貫き、その言葉をつくりあげてきた児童文学を追ううちに、読み聞かせてくれた父の声から引き寄せられたのは「私」の幼いころの記憶、「私」の知らなかったこと、思い出せない父の背中の刺青。

父と母はなぜあのように暮らしたのか。記憶の海に溺れながら、児童文学と翻訳と、「私」につらなる人々をめぐる道行き。

 

なんと漂流、脱獄、逃走が多かったことか。親のない子、親から離れた子の話が多かったことか。何もかもが旅でした。まるでそれが、児童向け図書の目的であるといわんばかりに。

おとなたちは、だれもが戦争を生き延び、戦後を生きていた。全集の企画者も、翻訳者も、編集者も、そして買ったおとなも、私の父も、心のどこか奥底で、それを、子どもたちに、私に、手渡したかったのだとしか思えないのです。

家から出ていけ。漂流しろ。路上で暮らせ。逃げろ。闘え。

その結果、私たちが得られるものとは、家族とか家庭とかいうものから解放されることでした。

【読売新聞】奈倉有里さんに『わたしのおとうさんのりゅう』をご紹介いただきました
【京都新聞ほか】郷原宏さんに『わたしのおとうさんのりゅう』をご紹介いただきました
【西日本新聞】大井実さんに『わたしのおとうさんのりゅう』をご紹介いただきました

目次

エルマーのぼうけん
わたしのおとうさんのりゅう エルマーのぼうけん
ルーシーのむしめがね エルマーのぼうけん
井伏鱒二の敬語 ドリトル先生アフリカゆき
ネコ肉屋の体臭
 
銚子の海
おじさんの本棚
兄きと姐さん
背中の刺青
昭和の文体 少年少女世界名作文学全集
 
父の戦争
父の軍歴
サカナとヤクザ 
ペペルモコ
暴力の港
 
ピピネラと私 ドリトル先生のキャラバン
その男たち 風にのってきたメアリー・ポピンズ/帰ってきたメアリー・ポピンズ
動物を殺す シートン動物記
コヨーテの声 シートン動物記
 
母系
母の戦争
母の「生きる」

謝辞・本書に登場するおもな作品たち

『わたしのおとうさんのりゅう』に関する情報

著者プロフィール

伊藤比呂美 (イトウ・ヒロミ)

1955年東京都生まれ。詩人、小説家。78年、詩集『草木の空』でデビュー、同年現代詩手帖賞受賞。80年代の女性詩ブームをリードし、「育児エッセイ」分野も開拓。2018年から21年、早稲田大学教授。06年『河原荒草』で高見順賞、07年『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞、08年紫式部文学賞、15年早稲田大学坪内逍遙大賞、19年種田山頭火賞、20年チカダ賞、21年『道行きや』で熊日文学賞を受賞。父の最後の三年半を綴った『父の生きる』ほか、『読み解き「般若心経」』『切腹考』『いつか死ぬ、それまで生きる わたしのお経』『森林通信 鷗外とベルリンに行く』『野犬の仔犬チトー』『対談集 ららら星のかなた』(谷川俊太郎氏との共著)など著書多数。

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