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小川淳也衆議院議員との対話を通して書き上げた『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』の刊行を記念して、著者の和田靜香さんと、NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さんとの対談をお届けします。
NO YOUTH NO JAPANは、「U30世代のための選挙の教科書メディア」。InstagramなどのSNSを通じて、若い世代に向けて政治や社会問題についての発信をしています。能條さんは和田さんが本書に取り組む初っ端に著書を読み込んだという井手英策教授の教え子であり、姉妹弟子のような関係ともいえるかもしれない。親子ほども世代の違う二人が「誰かの政治から、わたしたちの政治へ」をテーマに意気投合しました。
和田 今は大学院の1年目なんですよね。デンマークに留学されたのはいつ?
能條 大学3年を終えて1年休学して、2019年の3月から10月まで行ってました。デンマークは若い人の投票率が80%を超えてるし、女性の社会進出も進んでるし、「幸せの国」とか言われてるし、一回行ってみようって思って。前から政治に不満はあったんですけど、自分で行動を起こす勇気は全然なくて。でもデンマークに行ったら、同世代の人がEU議会や国会の議員になってるし、41歳の女性(メッテ・フレデリクセンさん)が首相だし、閣僚もほとんど40~50代。「日本にもこういうのを望んでもいいのかもしれない」と思って、同じく感銘を受けた日本人の友達と、向こうで働いてる日本人のデザイナーさんと3人で、NO YOUTH NO JAPANを始めました。
和田 すごい! 留学中に政治に物申すことを始めたんですね。
能條 インスタグラムで政治問題を図解する企画を始めてみたら、フォロワーが2週間で1万5千人とかになって、「何かしなきゃってモヤモヤしてたのはわたしだけじゃなかった。じゃあ続けよう」って思えて。
和田 いま現在はどういう活動をしてるんですか?
能條 メンバーは高校生から社会人までの10~20代で、63人です。地方選挙の投票率を上げる取り組みをこの2年ぐらいやってて、例えば神戸市の選管と一緒にキャンペーンをしたり、若い世代が関心のあるイシューについて各候補者にアンケートを送って、回答をわかりやすくまとめるみたいなことをやってます。あと「政治家と話そう」っていうプロジェクトで、政治家の人とインスタライブをしたり。一回小川淳也さんにも出ていただきましたよ。
和田 小川さんも! 同世代にも関心がない層が大勢いると思いますけど、そこはどうしていきますか?
能條 わたしが考えてるアプローチはふたつあります。まずひとつは、政治にあんまり関心ないっていう人にも、例えばジェンダーとか賃金とか、個別のモヤモヤはあると思うんですね。それを解決するために政治があると伝えること。もうひとつは、解決策はまだないんですけど、より多くの若い世代に声を上げてもらうことです。まだまだ意見になっていない課題がたくさんあるので、それが表に出てくれば、より興味を持つ人の幅を広げられると思うんです。職業やライフスタイルによってそれぞれ課題が全然違うからこそ、「若者」でひと括りにしない議論が鍵になると思います。
和田 わたしの若いころは、人権や環境の問題って今ほど話題にならなかったんですよ。だからいまだに「気にするのは意識高い系」みたいに思ってる人が多いんだろうし、わたしも気候変動には全然危機感がなかった。能條さんの世代はどうですか?
能條 わたしもデンマークに行くまでは正直、気候変動は意識もしてなかったんですけど、留学中にグレタ・トゥーンベリさんがデンマークに来て話題になって、すごく影響を受けました。学校の友達と一緒に視察のつもりでFridays for Futureのデモに行ったりしましたよ。日本に帰ってきてからも興味あるデモには行くようにしてます。
和田 行くときに躊躇したり、不安になったりしますか?
能條 しますけど、行ったら忘れちゃいますね。いづらかったらすぐ抜ければいいし、気になるならとりあえず行ってみようって。
和田 わたしと同じだ。娘みたい(笑)。
能條 この本のテンションもそうですよね。何もわからないけど行ってみた、っていう。わたしも同じタイプだと思いました。
和田 あらゆるインタビューで「どうしてこんなことしたんですか?」って聞かれるけど、「ただ行きたかったから行ったんです」とか答えてます(笑)。闇雲ですね。
能條 わたしも何も考えずに闇雲にやってます。NO YOUTH NO JAPANも、始めたときは何も考えてなかったから。
和田 わかる。やってみたらいい感じになって、みんながわーわー言ってくれたら気持ちが高まってさらにやるっていうタイプですよね。
能條 小さい成功体験を積み重ねて「やらなきゃ、やらなきゃ」って。
和田 わかるー。能條さん大好き(笑)。理由とかいらないですよね。とにかく「変えたい」って思ってるんだから。
能條 その方法を捜してたら人生終わっちゃうから、とりあえずできることをやってみよう、できないことは誰かがやるよと思って。
和田 NO YOUTH NO JAPANの本はいつ出るんですか?
能條 10月19日です。『YOUTHQUAKE U30世代がつくる政治と社会の教科書』っていうタイトルで、わたしたちがほしい政治の教科書を作ってみました。
和田 楽しみ。今は政治そのものにシフトしている感じなんですね。
能條 いろんな問題に関心があるんですけど、「根本、民主主義だな」とか、「根本、政治だな」って思うことが多いんです。いろいろ興味はあるけど、いったんこれを軸に活動してみて、違ったらまた動けばいいや、みたいな。
和田 「選挙に行こう」みたいなのが今いちばん訴えたいこと?
能條 もうすぐ衆院選があるので、今はそうですね。ただ、若者が変わっても政治が変わってくれないとどうにもならないから、そこをつなぐためにインスタライブをやってみてます。ニュージーランドのアーダーン首相がライブ配信で国民と対話するのを見て、日本もこういう人がリーダーであってほしいって思ったけど、ライブ配信やってくれる政治家なんて誰もいないんですよ。「やってくださいよ」って言っても「やり方がわからない」って言うから、教えてあげるんです。
和田 政治家側が歩み寄ってくれることもすごく大事ですよね。
能條 どう歩み寄ってきてほしいかをこっちがイメージできてなかったら、向こうもできないだろうし、「場」を作るとちょっとは変わるかなって。
和田 うんうん。すごい、能條さん。
能條 デンマークの友達にわたしが日本の政治の文句ばっかり言ってたら、「国民と政治家は合わせ鏡なんだよ」って言われたんですよ。「政治家がダメだって言うなら国民がダメだってことだよ。何かしたの?」って言われて、「何もしてない……やろう」って思ったんです(笑)。グチグチ言っててもしょうがないよなって。その考え方が一緒と思ったんです、この本と。
和田 うん。まったく同じですよ。
能條 政治家に市民が問題を投げかけて、一緒に考えようっていうのがすごく好きでした。
和田 感無量です。23歳の人がそんなふうに考えてるってうれしい。
和田 能條さん自身は政治家になりたいとは思わないんですか?
能條 迷いますね。最初は「ないない」って感じでしたけど、権利自体は誰にでもあるものだし、選択肢が足りないことも痛感しますし。だから気持ちはありますけど、政治家になって幸せになれるかどうかがまだわからないんです。
和田 毎週末、地元に入らないといけないですからね。国会議員も週末は友達や家族と過ごせるようにならないと。
能條 同世代の女性で政治家を目指す人が増えてほしいってわたしも思います。今、20代の市議会議員って全国で0.4%しかいなくて、そのうち女性は20%なんですよ。つまり0.08%ですね。その数字を見て「まだまだジェンダーギャップは埋まらないな」と思いました。
和田 女性議員がめっちゃ増えてほしいです、わたしは。国会議員も少なすぎるし、いても「わきまえる」人ばっかりだし。
能條 今の人数だと、「わきまえ」ないと上に行けないですもんね。あと日本は政党のあり方が特殊だと思います。自民党も立憲民主党も議員の集まりみたいじゃないですか。共産党と公明党は組織があって、そこから代表を出してますけど。デンマークは全部、組織政党なんですよ。党員がたくさんいて「次は誰が出る?」ってところから始まるし、比例代表制だから知名度は関係ない。組織を作っていかないと投票率も上がらないし、結局一部の人のためだけの政治になっちゃうなって思います。
和田 今後はどうされるんですか?
能條 再来年の3月までは大学院生で、それ以降はノープランです。こういう活動って続けるのが難しいんですよね。就職したら時間がなくなっちゃうじゃないですか。それじゃなかなか民主主義の土壌は広がらない。やっぱり給料を上げて労働時間を短くしてくれないと。やっぱりそこは政治しかない。
和田 それは小川さんも言ってました。最終的には労働問題に行き着きますね。
能條 わたしは最近、世代間の分断よりもさっき話した世代内の分断のほうが気になってます。「若者はどうなんですか?」とよく聞かれますけど、「わたしが若者代表を名乗れるのかな」って思うことが多くて。政治家が見てないところにも不安を抱えてる若者はいっぱいいるから、その声を届けていかないと。難しいけど、政治はみんなのためのものだから。
和田 だから政治家も自ら足を運んで声をかけてほしい。そうしなかったら何も変わらないし。「誰かの政治から、わたしたちの政治へ」みんなで動かしてゆきましょう。
構成:高岡洋詞 写真:野村玲央
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表。1998年、神奈川県生まれ。若者の投票率が80%を超えるデンマーク留学をきっかけに、若者の政治参加、教育や社会制度に関心を持つ。2019年7月政治の情報を分かりやすくまとめたInstagram NO YOUTH NO JAPANを立ち上げ、2週間でフォロワー1.5万人を集める。日本で若者の政治参加をカルチャーにすることを目指している。
『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』
著者:和田靜香 取材協力:小川淳也
イラスト:伊野孝行
装幀:松田行正+杉本聖士
四六判並製/280ページ
2021年9月5日 第一刷発行
定価:本体1700円+税
978-4-86528-045-6 C0031
© Sayusha 2021