「自分の幸せ」と
フェミニズム

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』著者の和田靜香さんが、フェミニスト/アクティビストの石川優実さんと対談しました。

 #MeToo のムーブメントをきっかけにフェミニズムに開眼した石川さんと、石川さんが問題提起した #KuToo でフェミニストになった和田さん。リスペクトし合う二人が、和気あいあいと「幸せ」について語り合います。

わたしが言いたいことはフェミニズムだったんだ

和田 わたしがフェミニズムに目覚めたのは石川さんの #KuToo のおかげなんです。あのとき「はっ! そうだ」と気づいて、この本(『#KuToo 靴から始める本気のフェミニズム』)を読んで、という流れだったので。

石川 うれしいです。でもあんまり自分が頑張ったって意識はなくて、わたしもみなさんと一緒に再認識させてもらった感じでしたけどね。ハッシュタグも別の方が作ってくれたものだったし。

和田 石川さんがフェミニズムに出会ったのは?

石川 2017年の末ごろに #MeToo の波が起こったとき、ある記事を読んで「わたしの経験と似てるな」と思って、自分の身に起こったことをnoteに書いたんです。それをきっかけにフェミニストの方たちが声をかけてくださるようになって、フェミニズムとかジェンダーという言葉を知りました。それから日常の中にある性差別を意識するようになって、葬儀会社のアルバイトで痛い思いをしながらパンプスを履いていたときに「フォーマルな場で女性だけヒールのある靴を強制されるのはおかしいのでは?」と思いついて、#KuToo が生まれた感じです。

和田 「わたしが言いたいことはフェミニズムだったんだ」と、言葉を与えられたみたいな感覚ですね。

石川 はい。自分の中で「問題だ」とか「イヤだな」とか思ってたことがほぼほぼ全部そうだったってことが、30年でやっとわかりました。

和田 30年で気づいたのは立派ですよ。わたしなんか倍近くかかってるから(笑)。

石川 知らないまま亡くなる人のほうが多いですもんね。わたしはフェミニズムを知れて本当によかったです。

バッシングに反撃し続ける理由

和田 石川さん、毎日毎日ものすごいバッシングを受けて、反撃し続けてるじゃないですか。あれには本当にびっくりするし、尊敬します。

石川 バッシングする人たちにもいろいろいると思うんです。ガチで楽しくてやってるヤバい人もいるでしょうけど、中には依存しちゃってる人もいるんじゃないかと思ってて。現状だとバッシングされる側ばっかり注目されて、する側に目がいかないじゃないですか。そこを可視化したいという目的があるんです。わたし自身あっち側になってた可能性もあるから。

和田 石川さんにリプライすると、わたしにまでバッシングが飛んできます。

石川 今の生活が幸せだから他人にそこまで執着せずに自分のことを考えられるけど、たぶん幸せじゃなかったら、ひとを攻撃するほうに向いてたと思うんですよね。それはつらいことだから、みんなで考えていかないか? と問題提起をしてるつもりなんです。なかなか伝わらないですけど。

和田 言われてみるとすごく大事ですよね。

石川 反差別とかフェミニズムって誰も取りこぼしちゃいけないはずじゃないですか。ミソジニストとかレイシストも含めて、みんなが生きやすくならないといけないわけだから、そっちのこともちゃんと考えてほしいなって思うんです。

和田 「どうせあの人たちはああだから」みたいに切り捨てちゃいけないと。

石川 そうそう……なんていいこと言ってますけど、ムカつくものは普通にムカついてます(笑)。「相手にしなきゃいい」とか「言い返したら同じ土俵に立つだけだ」とか「ほっとけばそのうち収まる」とか、よく言われるじゃないですか。それ全部事実じゃないと思うんですよね。ほっといても全然収まらないし、「同じ土俵に立つ」っていうのは本当にまったく意味がわかんなくて、先にいやがらせしてきた人と言い返した人がなんで同じ扱いにされるのか。

和田 それだと石川さんの意志はまるで無視されてます。人権も。

石川 要は黙らせるための言葉じゃないですか。人それぞれですけど、わたしは言い返したほうがうんとスッキリします。三浦まり先生に聞いたんだったかな、韓国では逆に「なんで言い返さないの!」って言われるんですって。

和田 すてき! 日本では怒ることってものすごくネガティブに捉えられがちだけど、実は大事なことじゃないですか。

石川 怒ることで見えるものや伝わることもありますもんね。でも、怒るべきときに怒るのってやっぱり難しいんですよ。わたしはツイッターで練習して少しずつリアルでも言い返せるようになったので、稽古が必要だなって。

和田 さすが役者(笑)。みんなで稽古したいですね。

石川 怒るワークショップ、あるといいですよね。

「自分の幸せ」を考えるところから始まる

和田 どんな問題や課題でも、「おかしい」と声を上げるとなんであんなに反発されるんでしょうね。選択的夫婦別姓も「家族の絆が壊れる」とか。うちはもともと家族崩壊してるから、「名字が同じでも絆なんてありませんけど?」って思いますよ。

石川 都合よく使いますよね、「絆」みたいな言葉を。

和田 家族のあり方にはずっと疑問があったから、石川さんが書いてた『大豆田とわ子と三人の元夫』の感想※1にはめちゃめちゃ共感しました。

石川 ありがとうございます。わたしも昔は家族って揺るぎないものだと思ってたし、自分も結婚して家族を作らないといけないと思ってたし、好きになったら結婚しないと意味がないって思ってたんですよ。でもフェミニズムに出会ってから、よくわかんなくなってきて。ここからは家族、ここからは恋愛、ここからは友情、とか分けられてるけど、そこにはまらない、今は名前がついてないつながりっていっぱいあると思うんですよね。

和田 うん。幸せだったらそれでいいんじゃないかって思いますよね。わたし、本の最後で小川さんと幸せについて話し合って、自分の幸せって何だろうって考えたんですけど、まだ答えが見つかってないんですよ。

石川 わたしがフェミニズムにたどり着いたのは、自分の幸せを考え始めたところからだったと思います。グラビアの仕事をしてたときは「今のわたしは幸せじゃないな」って思ってたんですね。でもやっぱり死ぬまでに幸せにならないといけないと思い始めて、それまでは自分で自分に容姿とか知性でリミットをかけて考えてましたけど、もしそれがなかったら自分は何を望むのか、っていうふうに考え始めたら、やることがどんどん変わっていったんです。

和田 そうだったんですね。

石川 ずっと昔から文章を書きたいと思ってたんです。でも自信がなくて、挑戦すらしちゃいけないと思ってました。水着の仕事なら誰でもできる、わたしは水着になるしかないんだ、って。でも、やってみないとわかんないからと思ってリミッターを外してみて、ブログを始めたんです。仕事の人から性的なことを求められて、受けなきゃいけないと思ってたのも、当時はそれがイヤだっていう認識があんまりなかったんですよ。モヤモヤもするし苦しいけど、はっきりした感情がなくて。でも幸せについて考え始めてから「自分が幸せになるためには、いやなのに仕事の人に求められた性的なことを受け入れることとか、自分の納得できない条件で水着になったり脱いだりすることはやっちゃダメだ」って思うようになりました。

和田 あー、なるほどね。

石川 そういった経緯で #MeToo にたどり着いてるので、すべては自分が何を求めてるのか、どういう人生を送りたいのかってことをマジで考え始めるところからだったな、ってこの本を読んでて思いました。それは政治にも必要だとわたしは思ってて、「不安のない暮らしなんて日本ではあり得ない」ってつい思っちゃうけど「あり得ない」で終わらせちゃいけないなって。あり得るところを目指さないと、いつになっても行けないから。

新しい国会議員像を作ってほしい

和田 すばらしい。今もグラビアとか役者のお仕事はしているんですか?

石川 前に取材していただいたときに「フェミニズム映画を作りたい」って言ってましたけど※2、やっと作れるんですよ。前に一緒にグラビアやってた子から連絡がきて「一緒に作ろうよ」って話になって。お金集めを頑張らなきゃいけませんけど。

和田 えーっ、楽しみ! ところで石川さんは政治家になる気はないんですか?

石川 実は一回だけお誘いがあって、そのときに考えたんですけど、やっぱ違うなって思いました。今の何者でもない自分として政治の話をしたほうが伝わりやすいのかなって思うし。あと制限が多くてめんどくさそうだなって。

和田 その制限を取っ払うためにも、石川さんみたいに動ける女性が政治家になってほしいんですよ。国会に出席して、その後グラビア撮影とか。かっこいいと思うし、政治家のイメージが変わりますよ。

石川 役者とかの仕事と両立できるなら考えてもいいかな(笑)。あと、政党に所属すると言えないことがあるのがイヤなんですよね。モヤモヤしたら全部言いたいから。

和田 小川さんは自分の政党の悪口ガンガン言ってますよ(笑)。何でそこまで言うのか?とかよく言われてるけど、言っちゃうんですよ、大切なことだから。

石川 そのほうが信頼できますよね。変に隠されると気持ち悪いし。むしろ和田さんが政治家になってくださいよ。

和田 最近やたら言われる。こないだ『週刊朝日』に載った小川さんとわたしの2ショットを見て、友達が「どう見ても和田のほうが政治家だろ」って(笑)。

石川 和田さんみたいな人が総理大臣になったら、日本がすっごく変わると思うんだけどなー。

和田 猫優遇の国にします(笑)。

※1 https://ishikawayumi.jp/towako/ ※2 https://book.asahi.com/article/12971307

構成:高岡洋詞 写真:野村玲央

石川優実(いしかわ・ゆみ)

俳優、フェミニスト。1987年、愛知県生まれ。2017年末、芸能界で経験した性暴力をnoteに公開し、話題に。それ以降ジェンダー平等を目指し活動している。2019年、日本の職場で女性のみにヒールのある靴の着用が義務付けられていることは性差別とし、「#KuToo」を発信。世界中で取り上げられ、同年、英BBCの「100人の女性」に選出された。

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』
著者:和田靜香 取材協力:小川淳也

イラスト:伊野孝行 
装幀:松田行正+杉本聖士
四六判並製/280ページ 
2021年9月5日 第一刷発行
定価:本体1700円+税 
978-4-86528-045-6 C0031

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