都市の危機を巡る日伊の比較研究から都市史のあらたな地平を描く
書誌情報
- 定価
- 4,070 円(税込)
- ジャンル
- 建築・理工・自然科学
- 刊行日
- 2017年01月30日
- 判型/ページ数
- A4判変形 並製 224ページ
- ISBN
- 978-4-86528-158-3
- Cコード
- C0052
- 装幀・装画
- 五十嵐哲夫/装幀
内容紹介
河川の氾濫、豪雨、火山、地震、そして津波。都市の歴史は災害の克服の歴史だった。都市の危機を巡る日伊の比較研究から都市史のあらたな地平を描く。東京大学建築学科伊藤毅研究室発、第一人者の手による注目の国際論集!【全論考和英併記】
本書は日本とイタリアにおける災害の歴史を比較都市史的観点から捉えることを目的として編まれた。日本とイタリアは地震国であり、過去さまざまな災害を被りながらも、現在まで豊かな都市文化を築いてきたという点で類似性が認められる一方で、石と木に象徴されるように都市生活が営まれる物的環境やその継承性には大きな隔たりがあった。
また日本は数多くの島嶼からなる国であって、人々の生活は水とともにあった。これはイタリアもよく似ている。アドリア海に浮かぶ潟を拠点とするヴェネツィア、またヴェネツィアが次第に支配領域を広げた陸地側(テッラ・フェルマ)を含むヴェネト地方は不安定な低地を巡る河川や水路、運河などによる多様な水系のネットワークを築いた。そのネットワークの形成と角遂の変遷こそがヴェネトの領域史とさえ言いうるほど、水の支配は重要であった。
一方、日本ではあまり進まなかった山岳地帯への居住は、むしろイタリアでは古くから積極的に展開し、トスカーナ地方に点在する歴史的な中世都市はまさにイタリアの都市の典型を示している。しかしこうした山岳都市は地震の恐怖とともに生きてきたという側面があり、2016年8月24日イタリア中部のアマトリーチェなどの美しい町々を襲ったイタリア中部地震は石造建物の崩壊とともに300人に及ぶ死者を出す近年稀にみる大災害となった。地震後の瓦礫の山の光景は凄絶であり、依然木造の多い日本とは異なる惨状を示していた。
本書はこうした自然災害を、従来のように外から人間居住を襲う不確定な災害とみるだけでなく、むしろ人間が自然とともに居住を構築していううえで不可分な要素として捉え直すことを試みている。
(伊藤毅「序」より)