都市美 創刊第1号

山本理顕責任編集『都市美』 創刊

書誌情報

定価
1,650 円(税込)
ジャンル
刊行日
2019年08月01日
判型/ページ数
A5判 並製 216ページ
ISBN
978-4-86528-243-6
Cコード
C0330
装幀・装画
廣村 正彰+中村 一行(HIROMURA DESIGN OFFICE)/装丁 、東仲 雅明/本文デザイン、廣村 正彰+中村 一行(HIROMURA DESIGN OFFICE)/本文デザイン

内容紹介

隣人と共に住むための都市、人々の生活を美しいものにするための芸術活動を名古屋造形大学から問う「都市美」。創刊特集は「コミュニティ権 新しい希望」と題し、コミュニティをつくることを権利として主張する。大澤真幸×木村草太×山本理顕の鼎談「家族の成立 コミュニティへの飛躍」、小熊英二×山本理顕「建築はコミュニティをつくれるか 経済・記憶・時間」をはじめ、ジャーナリストの武田徹、宗教学者の島薗進らの論考を収録。 ほか、名古屋造形大学のユニバーシティ・デザイン改革の詳細と、並行して行なわれる2022年の大学移転にかんする建築ドキュメント、生活圏と経済圏が混在したコミュニティを賞する「LOCAL REPUBLIC AWARD」の取組なども掲載。 いまコミュニティは可能なのか、そのために何が必要なのか。 美しい都市空間を提案し、その実現を目指す人たちと問い続ける、『都市美』創刊号。

 


創刊の辞
芸術活動は私という存在の内側を探求する活動ではない。
芸術家の活動は他者の存在を必要とする。
芸術活動は他者の共感を求める活動である。あるものを見て美しいと判断する。自分一人の内側でそう判断するだけではなくて、そこには、その判断を他者に対して共有してほしいという、懇願の気持ちが潜んでいる。
あなたと私は、今、同じ空間にいてそして同じものを見て同じようにそれを美しいと感じている。そのように感動している気持ちを「共感」と言う。イマニエル・カントが発見した感情である。
他者とは誰か。
私のすぐ隣にいる人であり、私と共に住む地域社会の人々である。芸術活動はそうした他者の共感を必要とする。
そうした人々が住む日常の生活空間を豊かにする活動が芸術活動である。私たち芸術家は日常生活の空間を美しい空間として提案し、それを具体的に表現することができる。
今、都市は経済活動のための空間である。経済活動のためにこそあると考えられている。都市は投資の場所であり、それを数倍、数十倍にもして回収する場所である。都市空間は投資家のためにある。
大した資金力もないせこい投資家のために日本の都市空間は切り刻まれ、彼らはそれぞれにせこい利益を稼いでいる。
そこに決定的に欠落しているのは美学である。美しい都市空間をつくるという意識である。彼らはそんなことなどまるで気にしない。気にもかけない。
そんな切り刻まれた都市空間が芸術家たちの活躍する空間なのである。
芸術家は美しい都市空間を提案し、その共感を訴えて懇願する。美しい都市は、隣人と共に住むための都市である。グローバル経済という私的利益のためではなく、そこに住んでいる人々のための美しい都市である。
『都市美』を刊行します。美しい都市空間を提案し、そしてその実現を目指す人たちに寄り添いたいと思います。
2019年8月1日
名古屋造形大学学長 山本理顕

「都市美」を取り戻す
「都市美(City Beautiful)」という言葉は伝統を背負っている。背負いすぎている。「City Beautiful Movement」は1893年に設立された「ニューヨーク都市芸術協会」の活動から始まった。その活動はその後、全米の主要な都市に広がり、さらにはヨーロッパの各都市にも影響を与えたが、20世紀に入って徐々に下火になっていった。
日本にも影響を与え、都市美協会が1926年に設立される。そこでは、都市計画家や建築家や造園家のみならず、デザイナー、美術家、歴史家や批評家に詩人などの参画、そして何よりも情熱ある市民の協力が謳われた。しかしその活動も1960年代半ばにはその幕を閉じてしまう。高度成長期に入って、都市がそこに生活する人々のためではなく、グローバルな経済活動のための都市になっていったからである。都市美が単に都市景観の問題になってしまったからである。
都市が美しいのは、そこに住む人々の生活が美しいからである。満ち足りた生活がそこにあるから美しい。すべての芸術活動は、そこに住む人々の生活を美しいものにするためにある。美しい地域社会をつくるためにある。
『都市美』編集委員会

目次

創刊の辞 山本理顕

特集 コミュニティ権 新しい希望
コミュニティ権 国家権力に対抗する権力 山本理顕
家族の成立 コミュニティへの飛躍 大澤真幸×木村草太×山本理顕
建築はコミュニティをつくれるか 経済・記憶・時間 小熊英二×山本理顕
ハンセン病患者たちの「共生の共同体」 武田徹
宗教とコミュニティ 同苦・同悲のつながりへ 島薗進

大学建築論
大学教育とその建築空間化 山本理顕
建築空間とサインデザイン 廣村正彰×山本理顕
名古屋両側町化計画 西倉潔
ドキュメント 名古屋造形大学建築記
 開かれた大学を目指して 蜂屋景二
 教室のない大学 玉田誠

論考
記憶と沈黙 日本のアーティストは日本の近い過去にどう応答したのか? 前編  谷尾(布野)晶子/訳者まえがき・布野修司
なごや寺町まちづくり 西倉潔
旅地蔵—阿賀をゆく—  髙橋伸行

LOCAL REPUBLIC AWARD
LOCAL REPUBLICの思想 田井幹夫
LOCAL REPUBLIC(地域社会圏)と自治 陣内秀信×北山恒×ジョン・ムーア×広井良典×山本理顕
人と人が重なり合う町、次の世代に継承する町 蜂屋景二

執筆者紹介

『都市美 創刊第1号』に関する情報

著者プロフィール

山本理顕 (ヤマモト・リケン)

1945年生まれ。建築家。東京藝術大学大学院修了。1973年山本理顕設計工場設立。2007-11年横浜国立大学大学院教授。2018年より名古屋造形大学学長。主な作品に、「埼玉県立大学」、「公立はこだて未来大学」、「横須賀美術館」など。チューリッヒ、天津、北京、ソウルなどでも複合施設、公共建築、集合住宅を手がける。1988、2002年日本建築学会賞、1998年毎日芸術賞、2000年日本芸術院賞など受賞多数。主な著書に『権力の空間/空間の権力』(講談社選書メチエ)、『脱住宅』(共著、平凡社) など多数。

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