ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険

池澤夏樹氏、阿部公彦氏、推薦! 知られざる英語辞書の世界とその秘密。

書誌情報

定価
2,970 円(税込)
電子書籍価格
2,970 円(税込)
ジャンル
刊行日
2020年04月13日
判型/ページ数
四六判 上製 360ページ
ISBN
978-4-86528-256-6
Cコード
C0080
重版情報
2
装幀・装画
松田行正+杉本聖士/装幀

内容紹介

アメリカの伝統ある辞書出版社メリアム・ウェブスター社の編纂者が、「英語とは何か」にさまざまな角度から光を当てる14章。 “it's”は文法的に「正しい」のか? “nude”は「白人の肌の色」? “marriage”は同性婚を含むのか? “bitch”は女性蔑視か? “OMG”は英語の退化?…… など、辞書編纂を通じて見えてくる英語の謎を、英語にまつわるトリビアや逸話も織り交ぜながら、専門的かつ軽やかな筆致で描き出す。 言葉の常識をひっくり返し、言葉と社会の繋がりを再発見する、普遍的なヒントがちりばめられた一冊。
辞書の側から見た英語がこんなにおもしろいとは!

 



言語は子どもである。行儀よくと願って育ててもどんどんワイルドになってゆく。
──池澤夏樹(作家・詩人)

言葉は単なる道具? いえいえ。辞書は魔界への入り口。もう外には出られません。
──阿部公彦(英文学者)

 


 

〈Hrafnkell 辞書編纂者の偏愛〉より
 辞書編纂者は日々、英語のごちゃまぜに肘まで浸かり、“ennui”〈憂鬱〉、“love”〈愛〉、“chairs”〈椅子〉という言葉を説明するのに、ぴったりの表現を手探りでつかもうとしている。言葉と格闘して、肥溜めから引きずりだし、辞書のページにピシャリと叩きつける。そうすることで、疲れ果ててはいても何がしかの達成感を得て、また同じ作業に戻っていく。名声を得るためにする仕事ではない。彼らの仕事の成果はすべて、社名を冠したタイトルのもと、匿名で出版される。それに、お金のためではないということもはっきりしている。辞書編纂の利ざやはとても小さいので、セント単位で数えられるほどなのだ。辞書を作るプロセスは魔術的で、挫折に満ち、脳を酷使し、華やかさもなく、超越的だ。それは、ぶざまで可愛げがないとされる言語に対する、究極の愛情表現なのだ。
 その全容を、ここにお届けする。
〈It’s 繁茂する英語〉より
英語は生きているだけでなく、いまでも勢いよく成長しつづけているのだと。
〈Surfboard 語釈の宿命〉より
語釈というものは、どこから眺めても何かが欠けているように感じるものだ。
〈Bitch よろしくない言葉〉より
“nigger”という言葉、そしてそれに対するありとあらゆる意見に対して、白人の辞書編纂者はどうしたら正しいことができるだろうか。
〈Posh 語源をめぐる妄言〉より
“sushi”が日本語だという、おたくの辞書は大間違いだという手紙をもらったことがある。
〈Marriage 権威と辞書〉より
辞書から人種に関する差別語を取り除いても、人種差別をなくすことにはならないし、辞書から“injustice”〈不正〉という語を取り除いても、正義がもたらされるわけではない。

目次

Hrafnkell 辞書編纂者の偏愛
But 「文法」の誤解
It’s 繁茂する英語
Irregardless まともじゃない言葉
Corpus 骨を拾い集める
Surfboard 語釈の宿命
Pragmatic 無感情で実用的な用例
Take 小さくも厄介な言葉
Bitch よろしくない言葉
Posh 語源をめぐる妄言
American Dream 初出という旅
Nuclear 発音と教養
Nude 肌色は何色か
Marriage 権威と辞書
エピローグ とてつもないこと

『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』に関する情報

著者プロフィール

コーリー・スタンパー (スタンパー、コーリー)

コーリー・スタンパーはメリアム・ウェブスター社で辞書を執筆・編集している辞書編纂者(原書刊行時。翻訳書刊行時点では退職)。ビデオ・シリーズ「アスク・ジ・エディター」に出演している。自身のブログ(www.korystamper.com)には言語や辞書学について定期的に投稿しており、『ガーディアン』紙、『ニューヨーク・タイムズ』紙、「Slate.com.」に執筆している。本と家族と共にニュージャージーに在住。

鴻巣友季子 (コウノス・ユキコ)

東京生まれ。翻訳家。主訳書に、J・M・クッツェー『恥辱』『イエスの幼子時代』『イエスの学校時代』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』『獄中シェイクスピア劇団』『誓願』、アマンダ・ゴーマン『わたしたちの登る丘』など多数。同時代文学の翻訳紹介とともに、古典の新訳と研究にも力を注ぐ。2003年、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』の新訳が大きな注目を集め、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』などの他、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』の小説版翻案も手がけ、解説書『謎とき『風と共に去りぬ』』は誰もが知る古典作品に新たな光を当てた。 翻訳に関する著書も多く、『翻訳問答』(片岡義男との共著)や『翻訳問答2』をはじめ、『明治大正—翻訳ワンダーランド』『翻訳ってなんだろう?』『翻訳教室—はじめの一歩』など多数。大学で翻訳の教鞭をとる。

竹内要江 (タケウチ・トシエ)

英語翻訳家。南山大学外国語学部英米科卒業(在学中米東部片田舎のカレッジに留学)、東京大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化修士課程修了(修士論文はアメリカの日本趣味小説について)。訳書にジェニー・オデル『何もしない』、ナオミ・イシグロ『逃げ道』、コーリー・スタンパー『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』(共訳)、ゲイル・サルツ『脳の配線と才能の偏り』、梅若マドレーヌ『レバノンから来た能楽師の妻』など。

木下眞穂 (キノシタ・マホ)

ポルトガル語翻訳家。上智大学ポルトガル語学科卒業。訳書にジビア・ガスパレット『永遠の絆』、パウロ・コエーリョ『ブリーダ』『ザ・スパイ』など。2019年、ジョゼ・ルイス・ペイショット『ガルヴェイアスの犬』で第5回日本翻訳大賞受賞。

ラッシャー貴子 (ラッシャー・タカコ)

英語翻訳家。上智大学外国語学部比較文化学科卒業。訳書にエハン・デラヴィ『Why on Earh アイスランド縦断記 彼は「問い」を抱いて旅立ち、そして「答え」に到達した』、翻訳協力にスティーブン E. ルーカス『アメリカの大学生が学んでいる「伝え方」の教科書』(狩野みき監訳)など。現在英国ロンドン在住。

手嶋由美子 (テシマ・ユミコ)

英語翻訳家。津田塾大学英文学科卒。マサチューセッツ州立大学大学院修士課程修了。訳書にブルース・クック『トランボ』、エドワード・セント・オービン『パトリック・メルローズ』シリーズなど。

井口富美子 (イグチ・フミコ)

ドイツ語翻訳家。立教大学文学部日本文学科卒。ベルリン・フンボルト大学で翻訳学を学ぶ。長年にわたり実務翻訳に携わる。訳書に、エルンスト・ヴルチェク『宇宙英雄ローダン・シリーズ 深淵の騎士たち』など。

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