オープン・ウォーター
ケイレブ・アズマー・ネルソン 下田明子
コスタ賞、ブリティッシュブックアワード受賞。「アフリカ系イギリス人」として生きることの困難と、人や芸術を愛することを綴る長編小説
書誌情報
- 定価
- 2,530 円(税込)
- 電子書籍価格
- 2,530 円(税込)
- ジャンル
- 文芸・評論・エッセイ
- 刊行日
- 2023年04月20日
- 判型/ページ数
- 四六判 並製 216ページ
- ISBN
- 978-4-86528-364-8
- Cコード
- C0097
- 装幀・装画
- 鳴田小夜子/装幀
LOOP IMAGES/amanaimages/写真
内容紹介
2021年英国コスタ賞新人賞、2022年ブリティッシュ・ブック・アワード新人賞受賞!
注目の書き手が優しく詩情豊かに、芸術への愛を存分に込めて綴った、デビュー長編小説。
「きみ」は写真家で、「彼女」はダンサー。2017年冬のサウスイースト・ロンドンで出逢ったふたりは、アフリカ系イギリス人のコミュニティやカルチャーのなかですぐに「一番の親友」になり、やがて恋人になる。季節の移ろいとともに関係はさまざまに揺れ動き、トラウマや悲しみ、人種差別が、時に大波を起こして「きみ」と「彼女」をさらっていく。それでも二人は、心の中の大海原で途方にくれて溺れている相手に手を差し伸べ、愛することを諦めない。
理不尽さに打ちのめされながらも、ゼイディー・スミス、バリー・ジェンキンス、ケンドリック・ラマーといった実在のアフリカ系アーティストたちの作品で彩られたこの大海原(オープン・ウォーター)へと、「きみ」はこわごわと、それでも意思を持って漕ぎだしてゆく。
南木義隆さん(作家、『蝶と帝国』著者)
この多様なメディアが氾濫する時代で小説は何ができるか。
大前提として、物語を言語で表現するのは、イラストや映像に比べて圧倒的にスローだ。そして本作は二人称を選択し、「きみ」の心の微細な揺れに辛抱強く寄り添う文体によって、世間一般の小説より更に迂遠で、スローなのだ。
スピード感のある言葉は SNS に任せておけばいい。
海を渡り、翻訳を経ても残る──翻訳家によって残された──言葉に宿る何か。日本語で出版される『オープン・ウォーター』は、著者からぼくたち読者一人一人の部屋に届く、親密な一通の手紙のような小説だ。
こんな小説の書き方があったなんて!
Riverside Reading Club ikmさん
DJスクリューが語る曲作りに、『バター』のラップに合わせたファイフの頭の動きに、ディジー・ラスカルの最初のアルバムが録音されたテープに、あるいは半地下のフロアでのダンスに、床屋の軒先で回されるジョイントに、“きみ”たちが感じる小さな自由や真実。この物語にもそれらが書き込められているのだと思う。この本から”きみ”たちと同じようにそれらを感じることは出来ないかもしれないけれど、この物語を通しても「見られているのに認められていない、うんざりするような日常」のなかで自由や真実を感じる”きみ“たち、彼女彼等の姿を、しっかりと見ること、ひとりひとりのLifeをたしかに認めることは出来るはずだと思う。ATCQのアルバムについての文章に倣うなら、この小説もそのLifeを見せるため、読ませるため、そして、自由のためのもの、だから。「生きようとする意志は抵抗だ」、それを物語ることもまた抵抗だ。美しい文章に魅了されながらも、それをしっかりと読み取れれば彼女彼等の物語が書き続けられる意味もまた少しだけ分る気がする。
読者感想
今まさに「溺れている」人は、死と生のあいだで、足元の暗闇に引き込まれないようもがいて、どうにかそこから抜け出そうとする。わたしたちが生きるこの世界はたぶん寄りつく岸も見つからないほどに水に満たされていて、それに気づいてしまった途端、それまで立っていた地面などはじめからなかったかのように苦しさを感じるのかもしれない。
それでも、ゼイディー・スミスやバリー・ジェンキンス、ケンドリック・ラマーがいるこの世界は美しいし、その価値を誰かと共有することができるならなおさら、生きるに値する。
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「きみ」と「彼女」の二人が求めているものはとてもシンプルだなと思ったし、最低限の要求を脅かされる日常を生きてる二人に同情すると同時に、力強さとしなやかさとやさしさを感じて、すごいなと思った。シンプルというのはつまり、自分の感情と欲求を正面から見据えていて、大切なものは大切なもの、瑣末なものは瑣末なもののままに、日々を生きているということで大切なものとは具体的には、愛、信じること、祈り、恐れ、恥じらい、誇り、安心、あたりになるのかな……。
ロンドン(ふるさとを出た先)で黒人(異物)として生きることがどれほど個人に何かを強いているのか、自分を守らないといけないかとかも、なんとなく頭ではわかっていた気がしたけど、小説という形式、非常に個人的なvoiceを通じて、身体的に分かってきた気がした。
【図書新聞】読書アンケートにて『オープン・ウォーター』が粟飯原文子さんによって選ばれました
【図書新聞】古森科子さんによる『オープン・ウォーター』の書評が掲載されました