書誌情報
- 定価
- 2,640 円(税込)
- ジャンル
- 文芸・評論・エッセイ
- 刊行日
- 2024年10月31日
- 判型/ページ数
- 四六判変形 並製 384ページ
- ISBN
- 978-4-86528-439-3
- Cコード
- C0097
- 装幀・装画
- 森敬太(合同会社飛ぶ教室)/装幀、ぱいせん/装画
内容紹介
独立映画、モータウン・サウンド、HIPHOP……
メインストリームから外れたソウルの「B面」
市場における観客占有率が「0%に向かって」減少の一途をたどっている独立映画をテーマとした表題作ほか、映画のシーンナンバーをつけられた章が散らばる「セルロイドフィルムのための禅」、公務員試験予備校のあつまる鷺梁津(ノリャンジン)を舞台に、勉強はそっちのけで恋と音楽にのめり込む〈俺〉の物語「SoundCloud」など。
若者たちの苦い日々がオフビートに展開する7篇。
〈李箱文学賞〉優秀賞、〈若い作家賞〉受賞作家による注目のデビュー作!
ライムスター宇多丸さん、大田ステファニー歓人さん(『みどりいせき』)推薦!
▼ライムスター宇多丸さん
主流文化からこぼれ落ちたものをこそ「逡巡がグルーヴする」文体で掬い取る、鋭くも優しい視点。これは凄い人が出てきたかもしれない……!
▼大田ステファニー歓人さん
映画的非連続性(モンタージュ) 音楽的重層性(サンプリング) 断片記憶の不確実性(マルチタスク)が現代人のフロウ(文体)
エリック・ロメールを見てベジタリアンになったってことだけで丸分かりだよ。あんたさ、『緑の光線』好きでしょ? エリック・ロメールのせいでベジタリアンになったんじゃないっすよと言ったものの、ユミ先輩は信じてくれなかった。急に吐き気がして顔がほてってくるのを感じたけど、運よく涙までは流さずにすんだ。俺のことをよく知りもしないくせに、腹が減って足がダルくて寒いってだけで俺の食習慣に言いがかりをつける先輩のせいで、俺はなんだか悔しくなった。先輩は俺がベジタリアンやってる理由知らないじゃないすか、よく知りもしないくせに。やっとのことでそう言うと、なに、ホン・サンスかっつーの。面白くないからやめな、そういうの、というセリフが返ってきた。 (「セルロイドフィルムのための禅」)
スティービー・ワンダーの『Talking Book』(1972)をとことん聴きまくった。スティービー・ワンダーだったら、俺レベルでも昔から知ってた。けど俺は有名な曲をいくつか知ってただけで、こうやってアルバム一枚を通して聴いたのははじめてだった。CDプレーヤーで音楽を聴いたのもはじめて。なんつーか、こうやって聴くのも新鮮だなと思った。あれだ、軍隊に入って、トイレの床は歯みがき粉でキレイになるって知ったときくらい新鮮な衝撃。ミントの歯磨き粉。クールな心地。スティービー・ワンダーは俺より何十年も前に生まれてたけど、その音楽はいつだって新しい感じがした。俺は耳からイヤホンを外して考えた。過去は心地よく、現在はつまらない、未来は新しい、って表現は間違ってんのかも。過去は新しく、現在はつまらない、未来は心地いい、この表現の方が正しいのかも、そう考えた。軍隊に来てから考えごとばっかしてるよな、俺、とまた考えた。まもなく俺は驚くべき事実を発見した。どっちにしたって現実はつまらねえ。ワオ、俺って天才かも。 (「SounCloud」)