【図書新聞】永田千奈さんのマリーズ・コンデ『料理と人生』の書評が掲載されました
『図書新聞』(2023年10月28日)書評面にて、フランス語翻訳者・永田千奈さんによるマリーズ・コンデ『料理と人生』の書評が掲載されました。以下、一部抜粋です。
二〇一八年、マリーズ・コンデが、ノーベル文学賞の代替賞である「ニュー・アカデミー文学賞」を受賞したとき、心から喜べなかった読者は少なくないだろう。代替賞を受賞したということは、もう彼女が「本物」のノーベル賞を授与されることがなくなったと思ったからだ。受賞者が存命であることが条件である以上、高齢の彼女に相応の栄誉が贈られたことに安堵しつつも、中途半端な印象を残したことは否定できない。だが、本書『料理と人生』は、彼女の文学の本質がそうした賞レースとは別の場所にあることを教えてくれる。「本物」にこだわりすぎるのは逸脱や交流を否定することなのだ。
(中略)
現在、彼女は病により身体の自由を失っており、夫(彼女の作品の英訳者でもあるリチャード・フィルコックス)の手を借りて、口述筆記で本書を書いたという。書くための「手」を夫に委ねても、彼女の言葉は彼女のものであり続ける。「わたしは自分が本物のグアドループ料理を作ってもいなければ、本物のグアドループ人でもないとわかっている。だが『本物』とは何だろう?わたしに教えてくれた人は誰もいない。すべてが交換され、交流する今の時代、本物などありえないし、そうある必要もないのだ」と彼女は書く。彼女には「本物」のノーベル賞など必要なかったのだ。
素敵な書評をありがとうございました。