歌よみに与ふる書

短歌史のマスターピースにして批評の名著、初の現代語訳!

書誌情報

定価
2,420 円(税込)
ジャンル
刊行日
2025年10月22日
判型/ページ数
四六判 並製 248ページ
ISBN
978-4-86528-488-1
Cコード
0095
装幀・装画
井澤june/装画 森敬太(合同会社 飛ぶ教室)/装幀 田部知季/協力

内容紹介

120年以上前の燃えるようなテキストが今、現代短歌界のトップランナー永井祐によって再生される——
正岡子規が1898年(明治31年)2月から10回にわたって新聞「日本」紙上に発表した伝説の歌論『歌よみに与ふる書』。俳句の近代化に力を注ぎ、文学者として影響力のあった子規が、つづけて短歌を近代化すべく論じた記事は、それまでの伝統的な和歌から現在まで続く近代短歌への転機となった。 初の現代語訳となる本書では、『歌よみに与ふる書』本編のほか、読者からの質問への回答「あきまろに答ふ」「人々に答ふ」、永井祐による正岡子規10首鑑賞、解説「子規と『歌よみに与ふる書』」を収録。
短歌ブームの現在、改めて短歌という詩型を考え直すきっかけとなる、タイムレスな魅力あふれる批評の書。

紀貫之は下手な歌人であって、『古今和歌集』はくだらないアンソロジーである。(「再び歌よみに与ふる書—『古今和歌集』について」)

 

前略。歌人のように馬鹿で気楽な人たちはまたとない。歌人たちの言うことを聞いていると、和歌ほどよいものはないといつも誇っているのだが、歌人たちは歌以外のことに無知なため歌が一番だとうぬぼれているだけなのだ。(「三たび歌よみに与ふる書—調について」)

 

噓を詠むのならまったくありえないこと、とてつもない噓を詠むべきである。そうでなければありのままに正直に詠むのがよいだろう。(「五たび歌よみに与ふる書—噓について」)

 

なるほど、歌は青ざめて息を引き取ろうとする病人のようなものだろう。けれども私の考えはまったく異なる。和歌は精神こそ衰えたものの身体はまだ続いている。今、精神を入れ替えれば、ふたたび元気な和歌となって文壇を駆け巡ることができると保証する。(「七たび歌よみに与ふる書—言葉について」)

 

『歌よみに与ふる書』は伝説の書だ。しかし改めて読んでみると、なんだかやばい文章だった。実際に『歌よみに与ふる書』では前半から現状の和歌がほとんど全否定され、紀貫之をばっさりいったあとには柿本人麻呂の名歌も「半分いらない」ぐらいのことを言われる。わたしは二十年とか短歌を続けている人だけれど、そもそも人麻呂のこの歌のここがこういう風にダメだ、というようなことを言っている人をほとんど見たことがない。このような否定のかたまりみたいなテキストが次の時代を開いたということに改めて驚いてしまう。(永井祐「解説 子規と『歌よみに与ふる書』」より)

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目次

【目次】
はじめに
◎歌よみに与ふる書 現代語訳
歌よみに与ふる書    ―現状について
再び歌よみに与ふる書  ―『古今和歌集』について
三たび歌よみに与ふる書 ―調について
四たび歌よみに与ふる書 ―理屈について
五たび歌よみに与ふる書 ―嘘について
六たび歌よみに与ふる書 ―投書に答える
七たび歌よみに与ふる書 ―言葉について
八たび歌よみに与ふる書 ―好きな歌について
九たび歌よみに与ふる書 ―好きな歌について2
十たび歌よみに与ふる書 ―あと少し言いたいこと
◎あきまろに答ふ・人々に答ふ
竹の里人に申す あきまろ
あきまろに答ふ
人々に答ふ
再び竹の里人に寄語す 千葉稲城
◎正岡子規十首鑑賞
◎解説 子規と『歌よみに与ふる書』
◎歌よみに与ふる書 原文
主な参考文献

『歌よみに与ふる書』に関する情報

著者プロフィール

正岡子規 (マサオカ・シキ)

俳人、歌人、随筆家。本名、正岡常規。幼名は処之助、のち升と改める。
慶応3(1867)年10月14日(旧暦9月17日)、伊予国温泉郡藤原新町(現在の愛媛県松山市花園町)に生まれる。明治16(1883)年、上京。明治25年、新聞「日本」に俳句論「獺祭書屋俳話」の連載を開始し、俳句革新に乗り出す。
明治28(1895)年、日清戦争従軍後、帰国途中に喀血し、永い病床生活に入る。闘病のかたわら文学上の仕事は活発化し、自らの執筆のみならず、精力的に俳句の指導・添削なども行い、後進を育てた。
明治31(1898)年、「歌よみに与ふる書」を発表し、短歌革新にも乗り出す。
明治35(1902)年9月19日、脊椎カリエスにより死去。享年三十四。
代表作に『獺祭書屋俳話』『歌よみに与ふる書』『病牀六尺』『竹乃里歌』『寒山落木』など。

永井祐 (ナガイ・ユウ)

歌人。1981年生まれ、東京都出身。2000年頃より短歌を始める。学生時代は早稲田短歌会所属。2002年、北溟短歌賞次席。2004年、歌葉新人賞最終候補。歌集に『日本の中でたのしく暮らす』(2012年・BookPark/2020年・短歌研究社より再刊)『広い世界と2や8や7』(2020年・左右社、第二回塚本邦雄賞)。2019年より笹井宏之賞選考委員。

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