【図書新聞】宮崎悠さんによる『ドナウ、小さな水の旅』の書評が掲載されました

【図書新聞】宮崎悠さんによる『ドナウ、小さな水の旅』の書評が掲載されました

政治学者・宮崎悠さんによる、山崎佳代子著『ドナウ、小さな水の旅』の書評が2023年4月22日の図書新聞3588号に掲載されました。以下一部抜粋です。  

 

ユートピアは「どこにもない場所で望ましい場所」の記述であり、ここにある秩序とは異なる場所を非常に良い場所として描く。それは旅行記の形で描かれることが少なくない。ガリヴァー旅行記のように完全にフィクションとして描かれる場合もあるが、現実と地続きの旅行にも幾らかのユートピア性がある。書き手は、旅先で見るものを切り出して繋ぎ合わせ、どこにもない順番で風景を描き出すことができる。そして、元々身を置いていた秩序を離れ。役割から身を切り離し「誰でもない私」である客人の視点を持つようになる。

本書は二〇一〇年の秋から二〇二二年の夏にかけ、ドナウ河をめぐる旅の記録として書かれた。セルビアを流れるドナウ河岸や、サバ川、モラバ川などドナウ支流の各地を訪れた時の様子が記されている。訪問時のやりとりの他に、それぞれの場所で想起される過去の出来事が大きな比重を占めている。筆者は荷造りをして出かけていき、旧知の友人たちと消息を確かめ合い、あれこれのお土産を受け取って次の目的地へ向かう。その身軽さは「誰でもない客人」のものだが、ある場所においてその過去を想起する仕方は、旅する人がそこへ至るまでに直接間接に経験してきたことや、出会ってきた文献によって異なってくる。そうした積み重ねが、いま目に見える景色を切り取る窓枠となり、何かを呼び出す際の(または何を呼び出すかの)よりしろを与えてくれる。

 宮崎さん、素敵な書評をありがとうございます。

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