『図書新聞』（2023年9月9日号）にて、フランス語圏文学研究者・福島亮さんによる管啓次郎著『エレメンタル』の書評が掲載されました。以下、一部抜粋です。

〜そう答えたのは本書を読み、頁を閉じた後も、読むという経験が波紋のようにゆっくりと続いているからである。『エレメンタル』は私にとってそんな本だ。スージー甘金の装画がとびきりクールな本。その本からは、読むことが溢れ出し、滴っている。読む、といっても、それは単に文字を読むことだけを意味するのではない。本書のなかでゲイリー・スナイダーやレベッカ・ソルニットを論じる際に著者が用いる印象的な表現を借りるならば、「植物とは土地の言葉」である。そして本書が誘うのは、土や石、風、あるいは植物、といったエレメント（地、水、火、風）の言葉に耳を傾けることだ。だから、一冊の本を読み終えたからといって、読むことが終わるわけではない。積乱雲や汀のさざめきや、夕方の空の華やぎを、どうして読まずにいられるだろうか。

三冊のエッセー集———『トロピカル・ゴシップ』（一九九八年）、『コヨーテ読書』（二〇〇三年）、『オムニフォン〈世界の響き〉の詩学』（二〇〇五年）———から選ばれた文章と、これまで単行本に収録されてなかった三つの文章からなる本書には、著者の三〇年近い歩行の軌跡が、オレンジの果肉の一粒一粒のようにぎゅっと詰まっている。その言葉は、聴き取っていることを忘れていたエレメントが発する倍音を聴き取らせてくれる。

素敵な書評をありがとうございました。