【第2回】日本人はいつからこんなに、さもしくなったのか

【第2回】日本人はいつからこんなに、さもしくなったのか

マカロニの穴から豆腐の角を見る

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【第2回】日本人はいつからこんなに、さもしくなったのか

重金敦之

 総選挙が終わり、第二次岸田内閣が発足したところで、もう一度「選挙公報」を読み直してみた。
 皆いいことを言っている。耳に当たりの好い言葉ばかりだ。現行の消費税を順守する政党は、消費税の消の字にもまったく触れていない。廃止から期間を限定しての削減を主張する党がある。
 れいわ新選組の公報には、「消費税は廃止! 一人20万円現金給付」とうたっていた。「諸派」と分類される政党の中には、「消費税、所得税(時限措置)0%」と主張し、「定額給付金(全国民)30万円」というところもあった。
 共産党は、持続化給付金の第二弾として、一人10万円(暮らし応援給付金)を提唱した。公明党は「0歳から18歳まで、すべての子どもに一人一律10万円(子育て応援トータルプラン)」のほかに、「マイナポイントで一人一律3万円付与」を訴えた。
 政府は公明党案をいともたやすく受け入れた。さすがに「丸のみ」はみっともないと思ったのか、現金とクーポンで5万円ずつ、で決着した。年収960万円以下という所得制限も設けた。公明党の山口代表は「未来応援給付」と称して、一律を盛んに主張していたが、維新の吉村副代表(大阪府知事)は、「該当する子どもが3人いるので、俺でも30万円もらえる」と、不備を指摘したが、高収入がある人と生活に追われている人とを同列に扱うのでは、悪しき平等といわれても、やむを得ない。
 マイナポイントといわれても、年寄りにはよくわからない。「個人番号(マイナンバー)カード」の普及のためなのか、コロナ対策なのか判然としない。はっきりしたのは、マイナンバーカードが今以上に普及するのはかなり困難だということだろう。「提灯(ちょうちん)で餅を搗(つ)く」という言葉が有るが、こういう状態をいうのだ。
 とにかく「デジタル化」といわれ、スマホが使いこなせないと、何もできない世の中になってきた。前回、「スマホを捨てよ 書を読もう」と書いたが、スマホが無いと、きわめて暮らし難い世の中になってきた。高齢者に多いはずの「スマホ難民対策」が必要となるのは間違いない。
 共同通信の世論調査で、「18歳以下へ10万円相当を給付する」政府の方針に「適切だ」と答えた人は19・3%にとどまった。子どもがいなくても、困っている人たちは数多くいる。高齢者の中にも生活困窮者が増えている。そういう人たちへの目配りが無いから、みな諸手を上げて、気分よく賛成しないのだ。
 年収960万円以下という所得制限がどれだけ適正なのかは、わからない。ほとんどの人が該当するという人もいる。余裕がある人と、困窮者を同等に扱うというのは、なかなか理解しにくい。いくら困窮していても、子どもがいないと、「恩恵」にはあずかれない。
 新型コロナウイルス騒動による生活困窮者を支援するのは結構なのだが、要は「哲学」というか「理念」がはっきりしないから、不満がくすぶるのだ。私は嫌いだから、最も使いたくない言葉なのだが、俗耳に入りやすいようにいえば、「こだわり」がない。
 なんだか、あたふたと対策を講じる政府の対応を見ていると、香具師(やし)の口上を聞いているような気がする。映画の寅さんではないが、祭礼の屋台のたたき売りと変わらない。今はあまり見なくなったがバナナの路上販売の啖呵(たんか)を思い出す。
「これで買い手がなかなかったら、あたし浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)じゃないけど、腹切ったつもり。だめか。黙って立っていても、安くはならないよ。いくら畑掘っても、ハマグリは出てこないっていうじゃないの。
 角の一流デパート、赤木屋、黒木屋、白木屋さんで、お化粧した店員さんからください、頂戴で買えば、6千、7千が8千、1万円はするという品物だよ。ここまで下げても買わないのか。ヤケノヤンパチ モッテケー、ドロボー」の類だ。品の無いこと、この上ない。金を出しさえすれば、とやかくいうことはないだろう、と国民をバカにしている感じがする。来年の参議院選挙を控えて、公明党の選挙対策だということを国民は見抜いている。
「しょせんこの世は金次第」と言ってしまえば、それまでだが、金で政党の支持票を集めようとする了見が問題なのだ。


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 GO TOキャンペーンというのもよく分からない。日本人は、いつから金をもらって旅行へ行くのをよしとするようになったのだろう。マイナポイントを初めとして、今は何でもポイントだ。電話料金、スパーマーケット、デパート、コンビニ、鉄道料金など、挙げていけばきりがない。ポイント時代、真っ盛りだ。
 この元凶は、おそらく航空会社が先鞭をつけた「マイレージ・サービス」にあるのではないか。1980年代の初めだろう。旅客機の運賃には、多くの種類が有り、購入する時期によっていわゆる「早割り」とか、「団体割引」とか割引率も複雑だ。旅行代理店が早い時期に買い占め、利用間近になってチケットが捌けず、安売り店に流すとか、うわさはいろいろある。
 昔は東京からニューヨークまでの個人旅行で往復のチケットを買ったとすると、気が利くカウンターの職員なら、ニューヨークからワシントンまでの往復チケットをサービスで作ってくれた。距離によって料金が設定されているから、東京からニューヨークまでの料金も、東京、ニューヨーク、ワシントンも同じなのだ。しかもその切符は一年間有効だ。長い時間滞在するビジネスマンにとってはありがたいサービスで、次の機会に用いても良い。この種のサービスはすべて職員の裁量によるものだった。
 そういう複雑な構造を数字に置き換え、わかりやすく整理、機能的にしたのがマイレージ・サービスだ。ポイントが貯まったから、ハワイまで行ってきた、などといかにも自慢げに語る旅行通が周りにいるでしょう。
 デパートでも、コンビニでも、必ず「ポイントカードをお持ちですか?」と尋ねられる。
「持っていません」と答えると「失礼しました」と返事が返ってくる。必ず確認するようマニュアルに定められているのだ。面倒くさくてたまらない。スーパーなどで、「本日はポイント3倍」とか「1,000ポイント贈呈」などという日もある。
 そこへきて、旅行すれば、安くなる、という。旅行なんて自分の楽しみは、自分の稼ぎで払うものと教えられてきた。昔のお伊勢参りだって、積み立ての無尽みたいな知恵を出していったもので、施しを受けたお伊勢参りなんて聞いたことが無い。それくらい、自分のお金で行きなさいよ。
 そういうことを言うと、「親ガチャ」だからという人が出てきた。カプセルに入った自動販売機の商品のように、親は自分で選べないものだから、自分の境遇は親が握っていて、今さらどうしようもない、といった意味だ。「自分の責任逃れで、責任回避」という人がいれば、日本ほど「親ガチャ」の傘から自由に抜け出せるところはない、という見方もある。ヨーロッパではごく当たり前に見られ、かつての日本でも重視されていた、「親の仕事(家業)を子供たちが継ぐ」という伝統は、消えつつある。先祖代々の土地を守る、という時代ではなくなったようだ。家から自由に飛び出ることができる。 
 しかし最近では、政治の世界でこの「美風」が残されているようだ。政治家は世襲制のように「家業」になり利権と化した感がある。田中角栄は高等教育を受けなくとも首相の座に着き、「今太閤」ともてはやされた。菅義偉前首相が登場したときに「田中角栄の再来」に通じる一種の「興奮状況」を生み出したのは、秋田から高校を出た青年が単身上京して、「身を立てた」というサクセスストーリーに夢を感じたからではないか。
 コロナ対策支援協力金の不正受給が頻繁に摘発されている。札束を目の前の露店の台の上に置いて、啖呵を切られれば、どうしても品性は堕落する。
 給付金をもし頂ければ、有り難く頂戴するけど、個人の旅行だけはやせ我慢を張ってでも、身銭で楽しむつもりだ。

◇次回の更新は12月1日を予定しています。

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